同じ「LDL 140」が、人によって目標内にも目標超えにもなる
健康診断で「LDLコレステロールが高い」と言われた。ただ、同じ140でも、人によって目標内にも目標超えにもなります。その分かれ目を整理します。
ただ、日本動脈硬化学会のガイドラインを見ると、管理目標値は一律ではありません。同じ140でも、ある人には目標内、別の人には目標超えになります。
目標値が3つある
『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』では、まだ心筋梗塞や脳梗塞を起こしていない人(一次予防)について、リスク区分ごとに目標値を分けています1。

健診結果に印刷されている「140以上」という線は、脂質異常症を拾い上げるためのスクリーニング値です。ガイドラインはこれとは別に、区分ごとの目標値を置いています。
何で区分が決まるのか
区分を決めるのに使われているのが、久山町研究のデータから作られたスコアです。入力するのは6つ1。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 性別 | 男性のほうが点数が高い |
| 収縮期血圧 | 5段階 |
| 糖代謝異常 | 糖尿病そのものは別扱い |
| LDLコレステロール | 4段階 |
| HDLコレステロール | 3段階 |
| 喫煙 | 現在喫煙しているか |
出てくるのは10年間で動脈硬化性疾患を発症する確率です。2%未満なら低リスク、2%以上10%未満なら中リスク、10%以上なら高リスクとされています1。
LDLは6つのうちの1つです。健診の数値が一つ範囲を外れたことと、リスクが高いことは、同じではありません。
なぜ一律にできないのか
理由は、薬でLDLを下げたときの効果の出方にあります。
スタチンの臨床試験90,056名分を統合した解析によれば、LDLを1mmol/L(約39mg/dL)下げると、主要な血管イベントは約2割減ります。ここまでは、もともとのリスクが高い人でも低い人でも、ほぼ同じ割合です2。
違うのは、その2割が何人分かのほうです。

同じ「2割減」でも、実際に減る人数は倍違います。これは相対リスクと絶対リスクの違いです。目標値を一律にできないのは、割合が同じでも、得られるものの大きさが人によって違うからです。
「低ければ低いほどよい」はどこまでか
「低ければ低いほどよい」という言い方を、ガイドラインは場面ごとに使い分けています。
二次予防、つまり既に心筋梗塞などを起こした人については「the lower, the better であることが示唆される」と書かれています1。
一方で一次予防の目標値は、低リスクで160未満、中リスクで140未満です。低いほどよいという方針にはなっていません。ガイドラインは、低・中リスクではLDLの低下率20〜30%も目標になりうるとしています1。
日本人のデータについても留保があります。LDLの上昇は脳梗塞に対して正の関係が示される一方、出血性脳卒中に対しては負の関係が報告されています1。低い側にも目を配る必要がある、ということです。
食事のコレステロールは、どこまで気にするか
ここも誤解が定着している部分です。
食事摂取基準2025年版は、コレステロールの目標量(上限)を設定していません。ただし理由の書き方が重要で、こう続きます。
これは、許容されるコレステロール摂取量に上限が存在しないことを保証するものではないことに強く注意すべきである3。
そして同じ報告書は、脂質異常症の重症化予防の目的では、コレステロールの摂取量を200mg/日未満に留めることが望ましいとしています3。
油の種類そのものについては、5種類を脂肪酸組成とエビデンスで並べています。飽和脂肪酸を植物油に置き換えること自体には、心血管上の利点が示されています。
健常な集団に一律の上限は置かないが、既にLDLが高い人には制限が推奨されています。対象が違うので、この2つは矛盾していません。「食事のコレステロールは関係ない」という単純化は、どちらの資料も支持していません。
結果を持って、何を話すか
ちなみに区分に使う項目のうち、血圧は自分で測れます。測り方と、診察室との基準の違いには注意がいります。
健診で数値を指摘されたとき、確かめられるのは次のあたりです。
血圧、喫煙、糖代謝、HDL。区分はLDL単独では決まりません。過去の結果と並べて動きを見ることも、一点の値では分からないことを補います。
そのうえで、区分の判定と治療の要否は医師の判断です。学会は一般向けのリスク計算ツールを公開しています。これは診断ではなく、診察室で同じ数字を見ながら話すためのものです。
ガイドラインは、いずれの区分でもLDLが180以上の場合は薬物治療を考慮するとしています1。この記事は、治療方針について判断するためのものではありません。
数値の意味は、その人の中で決まる
この考え方は、LDLに限りません。
基準範囲は、健康な人の値の真ん中95%を切り取った線であって、正常・異常を区別する値ではないと、学会のガイドラインが明記しています。そして数字の大きさは、何と比べるかで見え方が変わります。
どの数値についても、確かめることは3つです。何を測ったか。何と比べた数字か。自分の他の条件と合わせてどうか。
「LDL 145」という数値だけでは、良いも悪いも決まりません。同じ145が、低リスクの人では目標の範囲内で、高リスクの人では目標を超えています。
そして薬で下げたときに得られるものの大きさも、もともとのリスクによって倍違いました。
健診の紙に印刷された線は、拾い上げのための線です。その先は、線を超えたかどうかではなく、自分がどの区分にいるかの話になります。
区分を出すのに要る項目は、上の表のとおりです。性別、収縮期血圧、糖代謝異常の有無、LDL、HDL、喫煙。健診の結果票に、ほとんど載っています。
足りないとすれば血圧です。健診の値は年1回の1点なので、家庭で朝晩1週間測った平均のほうが、自分の値に近くなります。結果票を出してきて、6つのうち埋まっていないものを確かめるところからです。
参考文献・参考資料
- 日本動脈硬化学会編『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』2022年(第3版 2023年2月) https://www.j-athero.org/jp/jas_gl2022/
- Baigent C, Keech A, Kearney PM, et al. Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90,056 participants in 14 randomised trials of statins. The Lancet. 2005;366(9493):1267-1278. doi:10.1016/S0140-6736(05)67394-1 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16214597/(訂正記事:Lancet 2005;366(9494):1358、Lancet 2008;371(9630):2084)
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 脂質 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316463.pdf
- 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」III 世帯員の健康状況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/04.pdf
本記事はガイドラインと公的統計の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・サービスの効果を説明するものでもありません。リスク区分の判定、および治療の要否と方針は医師の判断によります。
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