「遅延型フードアレルギー検査」を受ける価値はあるか
食べ物による不調は、免疫が関わるものと、関わらないものに分かれます。前者がアレルギー、後者が不耐症。原因が違うので、調べ方も対応も別です。
そして「遅延型フードアレルギー検査」が示しているのは、その食品にさらされたことです。欧州アレルギー臨床免疫学会は、これを生理的な反応であるとし、不耐症の診断には使えないとしています。
ある食べ物で決まって調子が悪くなる。お腹が張る、頭が重くなる、肌が荒れる。その原因を絞るには、まずこの分かれ方から入ります。
大きな枠から見ていく
食べ物によって起きる好ましくない反応は、まとめて「食物過敏(food hypersensitivity)」と呼ばれます。この大きな枠が、免疫が関与するかどうかで二つに分かれます。
免疫の反応が関わっている場合が「食物アレルギー」で、関わっていない場合が「食物不耐症」です。同じように「合わない」という体験でも、体の中で起きていることは別物になります。
欧州アレルギー・臨床免疫学会(EAACI)が2023年に発表した命名法に関する position paper では、過敏反応がIgEを介するもの、IgEを介さない細胞性のもの(Tリンパ球などが関わる)、そして免疫機序を伴わない非アレルギー性のもの、に区分されています1。
| 食物アレルギー | 食物不耐症 | |
|---|---|---|
| 免疫の関与 | ある | ない |
| 主な機序 | IgE を介する反応/IgE を介さない細胞性の反応/両者の混合 | 酵素の不足、薬理作用、消化・吸収の問題など |
| 量との関係 | ごく少量でも起きうる | 量に依存することが多い |
| 重篤な反応 | アナフィラキシーが起こりうる | 通常は生命に関わらない |
この違いのうち、実生活で効いてくるのは「量との関係」かもしれません。少量なら平気で、たくさん食べると具合が悪くなる、という経験は不耐症の側で起きやすいものです。逆に、ごくわずかでも反応が出る場合は、免疫が関わっている可能性を考えることになります。
ただし、これはあくまで傾向であって、この違いだけで自己判断するのは難しいところです。アレルギーの診断には、症状の経過を丁寧に聞き取ったうえで、検査や、必要に応じて負荷試験を組み合わせる手順があります。
不耐症は、ひとつの現象ではない
「食物不耐症」という言葉は、免疫が関わらないものをまとめて指しているだけで、中身は一様ではありません。
代表的なのは、乳糖を分解する酵素の働きが弱いために起きる乳糖不耐症です。これは酵素の問題で、機序がはっきりしています。
食品に含まれる特定の成分が薬理的に作用して症状を起こす場合もあります。消化や吸収のしくみに関わる場合もあります。腸内で発酵しやすい糖質が関わっているとする考え方もありますが、腸内細菌叢について何がどこまで分かっているかは、それ自体がまだ流動的です。
機序が特定できているものと、症状のパターンから名前がついているだけのものが、同じ「不耐症」という言葉で並んでいます。この点は知っておくと、情報を読むときの助けになります。
「遅延型フードアレルギー検査」を受ける前に知ること
ここは触れておく必要があります。食べ物と不調の関係を調べたい人が、まず出会いやすい検査だからです。
血液中の食物特異的IgG、あるいはIgG4を測って「隠れたアレルギー」を調べるとされる検査が、自費で広く提供されています。ただし、この検査については主要な学会が明確な見解を出しています。
EAACIのタスクフォースは2008年、食物に対するIgG4検査を診断ツールとして推奨しないという報告を発表しました。報告によれば、食物特異的IgG4の存在は、その人の体が食品成分に繰り返しさらされ、免疫系がそれを異種タンパク質として認識したことを示しています。それは過敏を引き起こす因子ではなく、むしろ制御性T細胞の活動と結びついた免疫学的な寛容の指標と考えられます2。
結論として、食物特異的IgG4は食物アレルギーや不耐症が差し迫っていることを示すものではなく、食品成分への曝露後の生理的な反応であり、したがって食物アレルギーや不耐症の検査として無関係であり、食物関連の訴えがある場合に行うべきではない、とされています2。
カナダアレルギー臨床免疫学会も2012年に同様の立場表明を出しています3。
原因の分からない不調が続けば、何かに当たりを付けたくなります。ただ、この検査が拾っているのは曝露です。食べたことがあるかどうかを見ているので、結果の一覧は「体に合わないもの」の一覧にはなりません。
除去食を始める前に
始める前に決めておくものが1つあります。やめる条件です。
皮膚科が金属アレルギーで金属制限食を指導するときの記載が参考になります。「2ヶ月続けて無効であれば速やかに中止する」「厳格すぎる制限は微量元素欠乏症をきたす可能性があるため避ける」4。
除去は、始めるより終えるほうが難しくなります。期限を先に決めておくと、効かなかったときに戻せます。
特定の食品をやめる前に、二つ確かめます。
実際、盲検下で確かめると、症状と「原因として名指しされた食品」の対応関係はしばしばずれます。除去を始める前に、その対応関係を疑う余地があります。
検査結果や自己判断をもとに、特定の食品を長期間やめる人は少なくありません。ここには見落とされやすい負担があります。
ひとつは栄養面の偏りです。乳製品や小麦、卵といった食品群をまとめて外すと、補う設計をしないと不足が生じうるのです。
もうひとつは、生活上の負担でしょう。外食も、人との食事も、献立を人に頼むことも難しくなります。EAACIの報告も、臨床的な裏づけのない検査で診断を下すことが、患者の生活の質に深刻な悪影響を及ぼしうると指摘しています2。
そして、複数の食品を同時にやめると、何が効いたのかが分からなくなります。原因を探すはずが、かえって特定しにくくなる。ひとつずつ変えることの意味は、関連と因果を分ける話と同じ構造にあります。
まだ整理されていない領域
正直なところ、この分野には未確定の部分が広く残っています。
機序が特定されていない不耐症について、どう診断するかの標準的な手順は確立していません。多くは、食べたときの症状の記録と、除去と再導入を管理しながら行う方法に頼っています。客観的な検査で決着がつく領域ではないのです。
症状には心理的・生理的な要因も絡むため、食品そのものの影響だけを取り出すのは簡単ではありません。二重盲検での食品負荷試験が使われるのは、そのためです。
体験そのものは実際に起きています。分かっていないのは、その仕組みのほうです。
記録が、いちばん確かな材料になる
検査で答えが出ない以上、残るのは自分の記録です。何をどれだけ食べて、どれくらい経ってから、どんな症状が、どのくらい続いたか。
面倒ですが、この粒度まで来ると自分で判断できます。「小麦が合わない気がする」では次の一手が決まりません。「うどんを一人前食べた2〜3時間後に、決まって腹部の張りが出る。少量のパンでは出ない」まで書ければ、次に確かめるのが量なのか、小麦そのものなのかが決まります。
量との関係、時間差、再現性。この三つが分かるだけで、免疫が関わる話なのか、そうでないのかの見当もつきやすくなります。
量・時間差・再現性。この三つは、検査なしで自分で詰められます。検査結果をそのまま受け取るより、こちらのほうが確かです。
参考文献・参考資料
- Jutel M, Agache I, Zemelka-Wiacek M, et al. Nomenclature of allergic diseases and hypersensitivity reactions: Adapted to modern needs: An EAACI position paper. Allergy. 2023;78(11):2851-2874. doi:10.1111/all.15889 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37814905/
- Stapel SO, Asero R, Ballmer-Weber BK, et al. Testing for IgG4 against foods is not recommended as a diagnostic tool: EAACI Task Force Report. Allergy. 2008;63(7):793-796. doi:10.1111/j.1398-9995.2008.01705.x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18489614/
- Carr S, Chan E, Lavine E, Moote W. CSACI Position statement on the testing of food-specific IgG. Allergy, Asthma & Clinical Immunology. 2012;8(1):12. doi:10.1186/1710-1492-8-12 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3443017/
- 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf
本記事は、アレルギーと不耐症という用語と、それぞれの検査の整理です。個別の診断・治療に代わるものではありません。
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