「〇〇にいい」という研究を、どこまで信じるか
観察で良さそうに見えたものが、試験で逆になった例が残っています。「よく歩く人は認知症になりにくい」は、歩けば予防できるという意味ではありません。
健康に関する報道では、この種の一文をよく見かけます。読んだ側は自然に「では歩けば予防できるのか」と受け取ります。けれど元になった研究が示しているのは、多くの場合「そういう傾向が観察された」というところまでで、「歩いたから減った」までは示していません。
「関連がある」と聞けば「なら効果があるのだろう」と読みます。研究者も同じように考えて、確かめにいきました。その結果、期待とは逆のことが起きた例がいくつも残っています。
関連が観察される、四つの道筋
AとBが一緒に動いているように見えるとき、その裏にありうる事情は一つではありません。
二番目と三番目は、思っているより見分けがつきません。運動量の少ない人に認知症が多いという観察は、認知症の初期変化が活動量を下げている可能性と区別しにくいものです。よく歩く人は喫煙率が低く、収入や教育年数も違い、健診も受けています。効いているのは歩くことではなく、歩ける生活を成り立たせている条件のほうかもしれません。
観察研究では、この三番目——AとBの両方に影響する別の要因があるという場合(交絡と呼びます)——を統計的に調整しようとします。腸内細菌と健康の関係のように、この問題が特に集中する領域もあります。ただし調整できるのは測定した項目だけで、測っていない要因、そもそも測りようのない要因は残ります。ここが観察研究の構造的な限界です。
観察で見えていたものが、試験で消えた例
期待された方向とは逆の結果が出た例が、実際にいくつもあります。どちらも、観察の段階では関連がはっきり見えていたものです。
β-カロテンと肺がん
カロテノイドを多く含む野菜や果物をとる人、血中のβ-カロテン濃度が高い人は肺がんが少ない。この観察が積み重なり、では補って摂ればどうかという試験が組まれました。
男性喫煙者29,133人を無作為に分けて、β-カロテンを5〜8年にわたって投与した試験です。結果は、受けた群のほうが肺がんの罹患が18%高いというものでした2。
米国の別の試験(対象18,314人)も同じ方向でした。肺がんも全死因死亡も増えたため、予定より21か月早く中止されています3。
いずれも喫煙歴のある集団を対象にした試験であり、この結果を喫煙しない人にそのまま当てはめることはできません。それでも、「血中濃度が高い人は病気が少ない」から「その成分を補えば病気が減る」への飛躍が成り立たない場合があると示した影響は、大きなものでした。
ホルモン補充療法と心疾患
閉経後のホルモン補充療法についても、観察研究では心疾患が少ないという報告が重ねられていました。試験で確かめると、逆でした。
健康な閉経後女性を対象に、エストロゲンとプロゲスチンの併用とプラセボを比較した結果、平均5.2年の追跡で冠動脈疾患のハザード比は1.29(95%信頼区間 1.02〜1.63、286例)、脳卒中は1.41(同 1.07〜1.85、212例)、浸潤性乳がんは1.26(同 1.00〜1.59、290例)でした。試験は乳がんの発生が中止基準を超えたため途中で打ち切られています4。
注目したいのは、この論文が相対的な指標だけでなく絶対的な差も併記していることです。この二つがどう違うのかは別の記事で詳しく扱っています。1万人年あたりの超過リスクは冠動脈疾患が7件、脳卒中が8件、肺塞栓が8件、浸潤性乳がんが8件。大腸がんは6件、大腿骨近位部骨折は5件少なくなっていました4。「1.29倍」という数字と「1万人年あたり7件」という数字は同じ事実の別の表現ですが、受ける印象はかなり違います。
「善玉コレステロール」で起きたこと
HDLコレステロールは「善玉」と呼ばれ、高いほうが心筋梗塞が少ないことが繰り返し観察されてきました。関連はかなり強いものでした。
ところが、HDLが生まれつき高くなる体質の人を調べると、心筋梗塞が少なくなっていませんでした5。
使われたのは、メンデルランダム化という方法です。ある物質の血中濃度を高くする遺伝的な体質は、受精の時点でほぼランダムに割り振られます。生活習慣や収入では決まりません。だとすれば、その体質を持つ人と持たない人を比べることは、自然が行った無作為割り付けを使った比較に近づきます。
観察でHDLと心筋梗塞のあいだに見えていた関連が本当に因果なら、その体質を持つ人ではリスクが13%下がっているはずでした。実際には、差が見当たりませんでした5。HDLだけに関わる14の遺伝子多型を組み合わせたスコアでも、同じでした5。
この結果が効いてくるのは、同じ手法がLDLコレステロールでは因果を検出しているからです5。この方法自体は因果を捉えられます。LDLでは捉え、HDLでは捉えなかった。だからこそ「HDLが高いことは、心筋梗塞が少ないことの原因ではないかもしれない」という読み方が出てきます。
ここから持ち帰れるのは、関連が強いことは、原因である証拠にならないということです。強さではなく、どう確かめたのかを問う必要があります。
論文の結論も慎重で、「血漿HDLコレステロールを上げる遺伝的機構のいくつかは、心筋梗塞リスクを下げないようにみえる」と書かれています5。すべてのHDLの働きを否定したわけではない、という含みが残されています。
では、観察研究は当てにならないのか
それでも、観察研究でなければ分からないことがあります。喫煙と肺がんの関係は、人を無作為に喫煙群と非喫煙群に割り付ける試験なしに確立しました。そんな試験は倫理的に不可能だからです。研究がないことと、効果がないことは別です。
1965年、オースティン・ブラッドフォード・ヒルはまさに「環境と疾病 — 関連か、因果か」と題した講演で、観察された関連から因果を判断するために考慮すべき九つの観点を示しました。強さ、一貫性、特異性、時間的先行、量反応関係、生物学的妥当性、整合性、実験、類似性です1。
どれも単独では決め手になりませんが、揃うほど因果の説明は有力になります。曝露が結果より先に起きているか。量が増えるほど結果も増えるか。別の集団、別の方法でも同じ傾向が出るか。仕組みの説明がつくか。観察研究であっても、これらが積み重なれば因果の推論は強くなります。逆に、たった一つの観察研究で関連が見つかっただけの段階は、この積み重ねのごく入り口にすぎません。
もっとも、メンデルランダム化も万能ではありません。この方法は、使う遺伝子変異が目的の物質だけに影響し、他の経路を通じて結果に影響しないという前提に立っています。ひとつの遺伝子が複数の働きを持つことは珍しくなく、この前提が成り立つかどうかの検証自体が研究上の課題になっています。遺伝的な違いは生涯続くものなので、大人になってから短期間だけ介入した場合と同じ効果を意味するとも限りません。
無作為化比較試験にも別の限界があります。参加できる人は限られ、期間も限られます。ATBC試験の結果を非喫煙者に広げられないのはその一例です。厳密な条件下で確かめられたことと、実際の生活の中で起きることのあいだには、常に隙間が残ります。
ひとつの研究デザインで因果が決まることは、ほとんどありません。観察研究、無作為化試験、遺伝情報を使った解析。別々の方法が同じ方向を指したとき、確からしさは一段上がります。
記事を読むときに確かめられる、三つのこと
厚生労働省eJIMは「情報を見極めるための10か条」の中で、「因果関係を見定めよう」「比較されていることを確かめよう」という観点を挙げています6。専門的な吟味は難しくても、次の三点は多くの記事から読み取れます。
ひとつめは、比較があるかどうか。「Aを実践している人の◯%が改善」だけでは、実践していない人がどうだったのかが分かりません。ふたつめは、時間の順序。曝露が結果より先に起きたことが確かめられているのか、同じ時点で測っただけなのか。みっつめは、使われている動詞です。「関連していた」「傾向がみられた」と書かれているのか、「効果があった」「予防する」と書かれているのか。研究者が慎重に選んだ動詞が、記事の見出しで別の言葉に置き換わっていることは少なくありません。
「原因」を探したくなるとき
最後に、相関の手前にあるものを1つ挙げておきます。「症状の一覧に当てはまった」は、相関ですらありません。
相関は、2つの変数を多数の人で測って、一緒に動いているかを見たものです。症状のリストに当てはまるかどうかは、比較対象のない1人分の観察です。
しかも比較対象を置くと、当てはまりの意味が変わります。一般の人1,000人の調査では、過去7日間に症状がまったくなかった人は10.6%で、経験した症状の数は中央値5個でした。つまり9割の人が当てはまります。
「当てはまった」→「相関がある」→「原因である」。最初の矢印から、すでに飛んでいます。
体調が思わしくないとき、人は原因を一つに絞りたくなります。あの食べ物か、あのストレスか、あの習慣か。原因が特定できれば、対処もはっきりするからです。
けれど、ここまで見てきた研究者たちの苦労は、その特定がいかに難しいかを示しています。何万人を何年も追いかけ、遺伝子まで動員しても、関連と因果を分けるのは容易ではありません。そもそも「エビデンスがある」という言葉が何を指しているのかについてはこちらにまとめました。自分ひとりの体調について、思い当たった一つの要因を原因だと決めるのは、それよりずっと不確かな作業になります。
この構造は、サプリメントを足すかどうかを決めるときにそのまま効いてきます。観察で良さそうに見えたものが、試験で覆った例は、判断の順番を考える材料になります。
参考文献・参考資料
- Hill AB. The Environment and Disease: Association or Causation? Proceedings of the Royal Society of Medicine. 1965;58(5):295-300. doi:10.1177/003591576505800503 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1898525/
- The Alpha-Tocopherol, Beta Carotene Cancer Prevention Study Group. The effect of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers. New England Journal of Medicine. 1994;330(15):1029-1035. doi:10.1056/NEJM199404143301501 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8127329/
- Omenn GS, Goodman GE, Thornquist MD, et al. Effects of a combination of beta carotene and vitamin A on lung cancer and cardiovascular disease. New England Journal of Medicine. 1996;334(18):1150-1155. doi:10.1056/NEJM199605023341802 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8602180/
- Writing Group for the Women’s Health Initiative Investigators. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results from the Women’s Health Initiative randomized controlled trial. JAMA. 2002;288(3):321-333. doi:10.1001/jama.288.3.321 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12117397/
- Voight BF, Peloso GM, Orho-Melander M, et al. Plasma HDL cholesterol and risk of myocardial infarction: a mendelian randomisation study. Lancet. 2012;380(9841):572-580. doi:10.1016/S0140-6736(12)60312-2 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22607825/
- 厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』(eJIM)「情報を見極めるための10か条」https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/hint/index.html
本記事は研究結果の読み方を整理したものであり、特定の治療法・製品の推奨や中止を促すものではありません。また、個別の診断・治療に代わるものではありません。治療中の方は、この記事を理由に自己判断で変更しないでください。
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