「エビデンスがある」を、三つの質問で見分ける
同じ「エビデンスがある」でも、数千人を対象にした比較試験を指すこともあれば、試験管の中で細胞が反応した段階を指すこともあります。
健康や食事の情報を調べていると、この一文によく出会います。サプリメントの説明にも、施術の紹介にも、テレビの解説にも出てきます。
この言葉だけでは、どちらなのか分かりません。
その場で確かめられる、三つのこと
先に結論から書きます。「エビデンスがある」と書かれた一文を見たとき、確かめられるのは次の三点です。
| 確かめること | 分かれ目 |
|---|---|
| 誰を対象にした研究か | 動物か、人か。人なら、自分と近い状態の人か |
| 何と比べているか | 何もしない場合か、別の方法か、そもそも比較がないのか |
| どれくらいの差なのか | 相対的な割合(50%減)か、実際の頻度の差(100人中2人が1人)か |
この三つが書かれていないことは、よくあります。書かれていないと気づいた時点で、その情報の確からしさは一段下がります。
以下は、その理由です。
「エビデンスがある」は、ひとつの意味ではない
厚生労働省が運営する「統合医療」情報発信サイト(eJIM)は、医学・医療の分野におけるエビデンスを「ある治療法がある病気に対して、安全で効果のあるものなのかどうかを確率的な情報として示す検証結果」と説明しています5。
ここで見落とされやすいのが「確率的な情報として」という部分です。エビデンスは、ある集団を観察したときに平均としてどうだったかを示します。目の前の一人にそのまま当てはまるとは限らない、という前提が最初から含まれています。
「エビデンスがある/ない」は本来、白か黒かの二択ではありません。どんな研究が、どれくらいの人数で、何と比べて、どの程度の確からしさで示したのか。その中身を抜きにすると、この言葉はほとんど情報量を持ちません。
研究デザインによって、言えることの範囲が変わる
「研究で示された」と言うとき、その研究がどう組まれていたかで、読み取れる内容は大きく変わります。
| 研究デザイン | 言えること | 言いにくいこと |
|---|---|---|
| ランダム化比較試験(RCT) | 介入と結果のあいだの因果関係を検討できる | 長期の影響、まれな有害事象、実生活での再現 |
| コホート研究などの観察研究 | 要因と結果の関連の有無と方向 | 因果の断定(背景要因の影響を除ききれない) |
| 症例報告・症例集積 | そういう例があったという事実 | どれくらいの頻度で起きるか |
| 動物研究 | 作用の仕組みについての仮説 | ヒトで同じことが起きるかどうか |
| 試験管内(in vitro)研究 | 細胞や分子のレベルでの反応 | 生体の中での挙動、経口摂取後の到達性 |
| システマティックレビュー・メタ解析 | 複数研究をまとめた全体像 | 元になった研究の質を超えた結論 |
観察研究の行に「因果の断定」を挙げたのは、関連が見つかることと原因だと分かることのあいだに距離があるからで、この距離については別の記事で扱っています。健康情報でとくに混乱が起きやすいのは、下の二段と上の段が同じ「研究で示された」という言葉でまとめられてしまうときです。細胞に振りかけたら変化が見られた、という結果は、その物質を口から摂った人に同じことが起きる根拠にはなりません。消化され、吸収され、代謝され、標的の組織に届く、という過程がまるごと検証されていないからです。
ただし「RCTが常に上」ではない
研究デザインを階段状に並べた図はよく使われますが、この見方にも限界があります。落下傘の有効性をRCTで確かめることはできませんし、まれな副作用や数十年単位の影響は観察研究のほうが捉えやすい。いま使われている評価方法も、デザインの種類だけで序列を決めてはいません。
「根拠の強さ」は、4段階で評価されている
「エビデンスがある/ない」は二択に見えますが、実務では段階が付けられています。診療ガイドラインの作成で国際的に使われているGRADEという方法は、確実性を高・中・低・非常に低いの4段階で評価します2。

ここで言う「高」の定義も踏み込んでいます。「今後の研究によって効果の推定が変わる可能性は非常に低い」という意味であって、「絶対に正しい」という意味ではありません2。最上位でさえ、更新される余地を残した表現になっています。
確実性とは別に、数字の見せ方にも注意がいります。この点は独立した記事で扱ったので、ここでは要点だけ。10人に1人が発症する状況が20人に1人になっても、1万人に2人が1人になっても、どちらも「50%減」と書けます。同じ言葉が指す規模はまったく違います。何と何を比べた割合なのか、元の頻度はどれくらいなのかまで確かめないと、効果の大きさは判断できません。
それでも、エビデンスは揺らぐ
一つひとつを正しく読み取っても、公表されている研究の集まり自体が偏っていることがあります。
報告されない研究がある
2008年に New England Journal of Medicine に掲載された研究は、この問題を具体的な数字で示しました。米国FDAに登録された抗うつ薬の臨床試験73件を、公表された論文と照合したところ、論文だけを読むと94%が肯定的な結果に見えたのに対し、FDAの評価では肯定的とされたのは51%でした。効果量の見かけの大きさは、薬剤によって11〜69%、全体では32%大きく見積もられていました3。
これは特定の薬の話にとどまりません。芳しくない結果が公表されにくいという構造は、あらゆる分野で起こりえます。「肯定的な研究がいくつもある」という事実だけでは、否定的な研究が存在しないことの証明にはなりません。
再現できないことがある
2015年に Science で報告された大規模な検証では、心理学の主要3誌に載った100件の研究を、元の材料を使い、差があれば見つけられるだけの人数を確保して追試しました。元の研究では97%が統計的に有意だったのに対し、追試で有意だったのは36%。効果の大きさは平均しておよそ半分になりました4。
この検証は心理学を対象にしたもので、医学や栄養学の再現性がそのまま同じ比率だとは言えません。ただ、査読を通って一流誌に載った研究であっても、そのまま確定した事実として扱えるとは限らない。この点は分野を超えて示唆的です。健康情報が数年おきに覆るように見えるのは、必ずしも誰かが嘘をついているからではなく、こうした過程の一部が表に出ているためでもあります。
日本の「科学的根拠」表示は、何を保証しているのか
食品のパッケージに書かれた機能性の表示も、制度上の意味を知っておくと読み方が変わります。
消費者庁の説明によれば、機能性表示食品は「事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するもの」として消費者庁に届け出られた食品です。特定保健用食品(トクホ)とは異なり、国が個別に審査して許可したものではありません6。届出にあたって根拠資料の提出と情報公開は求められますが、その中身を国が確かめたわけではありません。
機能性表示食品にも根拠はあります。違うのは、その根拠を国が審査したか、企業が届け出たかです。届け出られた資料は公開されているので、元の研究まで辿れます。トクホとの違いは、別の記事で整理しました。
エビデンスは、答えを決めてくれない
身近な例で、水準の差を見てみます。「体に溜まるもの」と一括りにされる3つを並べると、根拠の量がまったく違います。
| ある数字 | 水準 | |
|---|---|---|
| 食品添加物 | 物質ごとの一日摂取許容量。日本人の実際の摂取量も毎年推定 | 上限も、実測もある |
| 重金属 | 耐容週間摂取量、魚種ごとの摂食目安、水質基準。体内半減期も分かっている | 上限も、実測もある |
| マイクロプラスチック | ない。定義も、参照物質も、採取手順も揃っていない | 評価そのものが行われていない |
この3つに対して「気をつけたほうがいい」と言うのは、同じ言葉でも意味の重さが違います。前の2つは数字で自分の位置が分かります。3つめは、位置そのものが分かりません。
逆に、入口が1つに絞られて、止めたら実際に減ったことが数字で確認された例もあります。弁当のDEHPは、手袋の使用に関する通知をはさんで平均4,420 ng/gから198 ng/gになりました。確かめられるときは、ここまで確かめられます。
もう1つ、同じ物質でも評価する機関によって数字が1,000倍違うことがあります。2023年、EUのEFSAと、ドイツのBfRが、BPAについて同じ年にそれぞれ 0.2 ng と 200 ng を出しました。どちらも評価を行い、どちらも根拠の文献があります。
「エビデンスがある/ない」の二択にすると、この差が消えます。調べられていないことと、調べて差がなかったことも、同じ「ない」になります。
最後に、この言葉の出発点にあった定義を見ておきます。いま使われている意味と、かなり違います。
「エビデンス」が広まったのは、1990年代の「根拠に基づく医療(EBM)」という考え方からでした1。
EBMは「論文どおりにやること」ではなかった
この定義が統合するものとしているのは、三つです。研究から得られる最良の外部エビデンス、臨床家個人の専門的な技能と経験、そして患者自身の価値観と希望。この三つが噛み合って初めてEBMになります1。
EBMは最初から「エビデンスさえあれば決まる」という考え方ではありませんでした。論文が示す平均的な結果を、目の前の人の状況と希望に照らして翻訳するところまでを含めて、ようやくEBMになります。
最後に、この読み方をしてもなお残るものがあります。研究が示すのは集団の平均であり、平均に一致する人がどこかにいる保証はありません。一人ひとりに合わせる研究は進んでいますが、どの要因がどれだけ効くのかについて、確立した答えはまだ出ていません。
だから最初の三点に戻ります。誰を対象に、何と比べて、どれくらいの差なのか。公的機関も、ほぼ同じ観点を「情報を見極めるための10か条」としてまとめています5。「その根拠は?」とたずねる、比較されていることを確かめる、出来事の「分母」を意識する、数字のトリックに注意する。並んでいるのは、専門知識がなくても実行できることばかりです。
「エビデンスがあるから正しい」でも、「エビデンスなんて当てにならない」でもなく、その中身を確かめたうえで、自分の場合はどうかを考える。答えを保留したまま問いを持ち続けている時間に何が起きているのかについては、別に書きました。その手間のかかる作業が、他人の正解を受け取ることと、自分で選ぶことを分けています。
参考文献・参考資料
- Sackett DL, Rosenberg WMC, Gray JAM, Haynes RB, Richardson WS. Evidence based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ. 1996;312(7023):71-72. doi:10.1136/bmj.312.7023.71 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8555924/
- Guyatt GH, Oxman AD, Vist GE, Kunz R, Falck-Ytter Y, Alonso-Coello P, Schünemann HJ. GRADE: an emerging consensus on rating quality of evidence and strength of recommendations. BMJ. 2008;336(7650):924-926. doi:10.1136/bmj.39489.470347.AD https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2335261/
- Turner EH, Matthews AM, Linardatos E, Tell RA, Rosenthal R. Selective publication of antidepressant trials and its influence on apparent efficacy. New England Journal of Medicine. 2008;358(3):252-260. doi:10.1056/NEJMsa065779 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa065779
- Open Science Collaboration. Estimating the reproducibility of psychological science. Science. 2015;349(6251):aac4716. doi:10.1126/science.aac4716 https://www.science.org/doi/10.1126/science.aac4716
- 厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』(eJIM)「情報の見極め方/情報を見極めるための10か条」https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/hint/index.html
- 消費者庁「機能性表示食品について」https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims
本記事は健康・医学情報の読み方を整理したものであり、特定の治療法・製品の推奨や、個別の診断・治療に代わるものではありません。
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