答えが出ないまま調べる時間を、無駄にしないために
結論が出ないまま調べている時間は、無駄ではありません。その最中は、目当ての答え以外のものまで記憶に残りやすくなっています。
健康について調べていると、答えのほうが先に来ます。「これがいい」「これはよくない」。検索すれば、たいてい何かしらの結論が待っています。
けれど、答えを先に受け取ってしまうと、自分が何を知りたかったのかが分からないまま終わります。
そのことを示した実験から見ていきます。
知りたいと思っているとき、脳では何が起きているのか
好奇心は長らく、測りにくい主観として扱われてきました。実験の対象になったのは、比較的最近のことです。
そこで分かってきたのは、「知りたい」という状態が、報酬を期待している状態とかなり重なるということでした。雑学的な質問を読ませて脳活動を観察した実験では、好奇心が強いほど報酬の予期に関わる部位の活動が高まっていました。実際の行動でも、好奇心が強いときほど、答えを知るために時間や資源をより多く使っていました1。
答えを知ることは、脳にとって報酬を受け取ることに近い。好奇心が強いほど、人はその報酬に時間と資源を払います。
好奇心が高いとき、関係のないことまで覚えている
好奇心が高い状態で読んだ内容がよく記憶される。それだけなら驚きはありません。同じく雑学質問を使った実験で、もう一段おもしろいことが見つかりました。
驚いたのは、その状態でたまたま一緒に提示されただけの、質問とは無関係な情報まで、よく覚えられていたことです。実験では質問と質問のあいだに、内容と関係のない人物の顔が挟まれていました。好奇心が高まっている最中に見た顔は、即時のテストでも、1日後のテストでも、より正確に思い出されました2。
問いを持っているとき、人は目当ての答えだけを効率よく取り込んでいるのではないようです。周辺のものごとまで、いつもより通りやすい状態になっています。何かを本気で知りたくて調べていた時期のことを、関係ない細部まで覚えている。あれが起きています。
ただし、これらは健康な成人を対象にした比較的小規模な実験です。心理学・神経科学の研究がどこまで再現されるかについては別の記事で触れたとおり慎重に見る必要があり、日常のあらゆる学習にそのまま当てはまるとまでは言えません。
では、問いはどこから生まれるのか
長く参照されてきた説明に、「情報のギャップ」という考え方があります。好奇心とは、自分が知っていることと知りたいことのあいだの隔たりから生じる、足りていない感覚だという見方です3。
この見方には、ひとつ含みがあります。ギャップを感じるには、まず「自分はこれを知らない」と気づいている必要がある。何も知らない状態では、知らないことにすら気づけません。少し知ったからこそ、知らない部分が見える。問いは無知から自動的に湧くのではなく、部分的な理解の縁に現れます。
それでも私たちは、答えを早く欲しがる
けれど、宙ぶらりんの状態は落ち着きません。この感覚にも研究の蓄積があります。
この急ぎ方は、「認知的閉合欲求」として研究されてきました。二つの傾向として現れます。できるだけ早く結論に到達しようとすることと、いったん得た結論をできるだけ長く保とうとすることです44。
体調が悪いとき、原因を早く特定したくなります。特定できれば対処が決まり、不安が減る。まだ分かっていない領域ほど断定的な説明が現れやすいのは、この需要があるからです。統合医療に向けられる期待にも、同じことが起きています。この動きは、怠慢でも思考停止でもなく、人に共通する傾向として記述されてきたものです。急いで答えを決めたくなる自分を責める必要はありません。ただ、そういう力が働いていると知っておくと、少しだけ扱いやすくなります。
わからなさは、不安だけを生むわけではない
医療の領域では、この「わからなさ」との付き合い方が、不確実性耐性(uncertainty tolerance)として研究されています。
その整理で目を引くのは、肯定的な反応も定義に含まれていることです5。知らないと意識したときに起きるのは、不安や回避だけではありません。興味や探索も、同じ状態から生まれます。
ただし、どうすれば耐性が高まるのか、高いことが常に望ましいのかについて、確立した答えはまだありません。
日常に持ち帰れること
実験室の記憶課題と、健康について何年も考え続けることは同じではありません。そのうえで、三つ。
ひとつは、答えを保留している時間が無駄ではないこと。結論が出ないまま調べている時期は、効率が悪く見えて、周辺の理解が広がっています。
二つめは、問いが生まれるには少し知る必要があること。「何がわからないのかがわからない」段階では、まず概略に触れてみる。輪郭が見えてくると、聞きたいことが具体的になります。医療者に相談するときも、「なんとなく調子が悪い」より「いつから、どういうときに、どう変わったか」のほうが話が進みやすいのは、同じ理由です。
三つめは、早く結論を出したくなる自分の傾向を知っておくこと。急いで決めた答えは、その後なかなか手放せなくなります。閉合欲求の「永続性」が示しているのは、そういうことです。
問いのまま置いておく
検査を受けるときにも、同じことが起きます。
検査はそれぞれ違う問いに答えています。だから問いが決まっていないまま結果を見ると、読み方も決まりません。どの項目を重く見るかは、何を知りたかったかで変わります。
そして、問いが立っているのに答えがまだ無い領域もあります。マイクロプラスチックの健康リスク評価は、まだ行われていません。この場合の「分からない」は、問いが悪いのではなく、答えが揃っていないほうです。
健康の分野では、答えが出ていない部分がかなり広い。研究が足りない領域も、研究があっても割れている領域もあります。そういう場所で無理に結論を作ると、たいてい後で修正することになります。
わからないまま抱えておくのは、落ち着きません。ただそれは、判断を放棄していることとは違います。今のところここまでしか分かっていない、と正確に把握している状態は、それ自体がひとつの理解です。
やることは、問いを1行で書き出すことです。頭の中にあるうちは、答えを探している問いなのか、まだ輪郭を作っている途中なのかが分かれません。
書いてみると、たいてい2つに割れます。「◯◯は体にいいのか」は輪郭の途中。「自分の◯◯が△△なのは、何で決まっているのか」は答えを探せる形です。後者の形になったとき、はじめて調べる先が決まります。
参考文献・参考資料
- Kang MJ, Hsu M, Krajbich IM, et al. The wick in the candle of learning: epistemic curiosity activates reward circuitry and enhances memory. Psychological Science. 2009;20(8):963-973. doi:10.1111/j.1467-9280.2009.02402.x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19619181/
- Gruber MJ, Gelman BD, Ranganath C. States of curiosity modulate hippocampus-dependent learning via the dopaminergic circuit. Neuron. 2014;84(2):486-496. doi:10.1016/j.neuron.2014.08.060 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4252494/
- Loewenstein G. The psychology of curiosity: A review and reinterpretation. Psychological Bulletin. 1994;116(1):75-98. doi:10.1037/0033-2909.116.1.75
- Kruglanski AW, Webster DM. Motivated closing of the mind: “Seizing” and “freezing.” Psychological Review. 1996;103(2):263-283. doi:10.1037/0033-295X.103.2.263 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8637961/
- Hillen MA, Gutheil CM, Strout TD, Smets EMA, Han PKJ. Tolerance of uncertainty: Conceptual analysis, integrative model, and implications for healthcare. Social Science & Medicine. 2017;180:62-75. doi:10.1016/j.socscimed.2017.03.024 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28324792/
本記事は心理学・神経科学の研究をもとに、情報との向き合い方を整理したものです。特定の治療法・製品の推奨や、個別の診断・治療に代わるものではありません。
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