寝酒をやめるか迷ったときの判断材料
飲んだ日は、よく眠れた気がする。その実感は、まちがってはいません。ただし当てはまるのは、一晩の前半だけです。
ただ、厚生労働省の睡眠ガイドは、寝酒についてはっきりと書いています。睡眠前半では深い睡眠が増えるが、後半の質は顕著に悪化すると1。一晩のうち、前半と後半で逆のことが起きています。
前半と後半で、逆のことが起きている
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」には、こう書かれています。
アルコール(エタノール)は一時的には寝つきを促進し、睡眠前半では深い睡眠を増加させます。しかし、睡眠後半の眠りの質は顕著に悪化し、飲酒量が増加するにつれて中途覚醒回数が増加することが報告されています1。
寝つきが早くなったことも、前半に深く眠ったことも、本人の実感としては正しい。ずれているのは、そこで一晩の評価を終えてしまうところです。
朝の疲労感は、検査上の睡眠指標ではあまり説明がつかないことが分かっています。飲酒はここに、もう一つの説明を足します。前半だけを覚えていて、後半を覚えていない。
「寝つきが早くなる」は、量による
寝つきが早くなったのは、かなり飲んだときだけでした。体重1kgあたり0.85g以上、標準的な飲酒でおよそ5杯相当です2。健常成人を対象にした27研究をまとめた結果です。
1〜2杯で「寝つきがよくなった」と感じているなら、それは量による効果ではありません。

つまり「少しだけなら大丈夫」という感覚は、この2つの順番を取り違えています。少量から乱れるほうが先で、寝つきが良くなるのは後です。
体が休んでいない、という別の証拠
眠りの構造とは別に、循環の側でも変化が測られています。
健常成人26名を対象に、低用量・高用量・プラセボの3晩を比較した実験では、飲酒した夜は心拍数が上がり、体が活動側へ傾いていました(心拍のゆらぎが小さくなり、交感神経の活動が増えていました)3。著者らは「中等量であっても顕著な影響がある」と述べています。
眠っているあいだ、体は休息の側に切り替わるはずのものです。そこが切り替わりきらない夜がある、ということになります。
いびきを指摘されたことがあるなら
いびきや睡眠時無呼吸の素因がある人では、飲酒した夜に呼吸が止まる回数が増えます。量とは別の軸です。
いびきや睡眠時無呼吸の素因がある人を対象にした13研究・279名のメタ解析では、飲酒により睡眠中に呼吸が止まる・浅くなる回数が1時間あたり3.98回増え、血中の酸素がいちばん下がったときの値も2.72%低くなっていました4。
これは素因のある人での数字で、全員に同じことが起きるわけではありません。ただし、いびきを指摘されたことがある人では、飲酒量が睡眠時無呼吸の重さを左右します。
睡眠ガイドも、無呼吸の治療をしていない場合の飲酒は「基本的には使用しない方がよい」としています1。
日本人には、もうひとつ条件がある
アルコールは体内でアセトアルデヒドに変わり、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)で分解されます。この酵素の活性には個人差があり、睡眠ガイドはこう書いています。
日本人を含むアジア人は西欧人やアフリカ系の人より活性が低い人が多いことが知られています。ALDHの活性が低い人は、アルコール摂取量が少量でも影響を強く受けやすいのでより一層注意が必要です1。
飲むと顔が赤くなりやすい人は、この活性が低い側にあたります。同じ量でも、起きることは人によって違います。海外の研究の「標準的な1杯」は、そのまま自分には当てはまりません。
飲んだ日と飲まなかった日を、記録で比べる
飲んだ日と飲まなかった日で、自分に何が違うのか。これは記録すれば分かります。
ただし、比べるのは「寝つき」ではありません。前半は良くなるからです。見るのは夜中に目が覚めた回数と、朝の感覚のほう。
そして一度に一つだけ変えること。飲んだ量、飲んだ時刻、就寝時刻。同時に動かすと、何が効いたのか分からなくなります。
寝る前のカフェインについては、コーヒー1杯でも睡眠に影響しうる量に届きます。ウェアラブル端末の数字を見ているなら、機器が推定する睡眠段階は検査で測るものとは別です。数字より、翌朝の実感のほうが直接的です。
相談したほうがいい場合
眠るために飲むことが習慣になっている。飲まないと寝つけない。量が増えている。こうした場合、起きているのは睡眠の問題だけではありません。睡眠ガイドは、寝酒の連用で依存と耐性が形成されることに触れています1。
また、いびきを指摘された、睡眠中に呼吸が止まっていると言われた、日中の眠気が強い。この場合は飲酒とは別に、医療機関で確認したほうがいい領域です。
前半の記憶で、一晩を評価しない
もう1つ、その晩の外側に効いていることがあります。
アルコールの処理は二段階で、日本人の4割強は二段目の働きが低い側にいます。ヘテロ欠損型では活性が約1/16。中間にできるアセトアルデヒドが滞る時間が、その分だけ長くなります。
そして肝臓は、アルコールだけを処理しているわけではありません。薬や環境中の物質も、同じ酵素群で処理されています。飲んだ晩は、その処理の順番を占有していることになります。
寝酒が「効く」と感じられるのは、前半だけを体験しているからです。寝つきの良さは覚えていても、明け方の浅い眠りは記憶に残りにくい。
そして順番は逆でした。少量から乱れるのがレム睡眠で、寝つきが良くなるのは多く飲んだときです。
睡眠の長さは、感染のしやすさにも関わっています。同じウイルスを投与した実験で、睡眠時間による差が出ています。
そして同じ量を飲んでも、体の中に残るものの量は人によって違います。日本人の4割強は、アセトアルデヒドを分解する酵素の働きが生まれつき低い側で、ヘテロ欠損型の活性は約16分の1でした。
飲むかどうかを決めるのは本人ですが、「よく眠るために飲む」という理由づけだけは、根拠が逆を向いています。
参考文献・参考資料
- 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会「健康づくりのための睡眠ガイド2023」令和6年2月 https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
- Gardiner C, Weakley J, Burke LM, et al. The effect of alcohol on subsequent sleep in healthy adults: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2025;80:102030. doi:10.1016/j.smrv.2024.102030 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39631226/
- de Zambotti M, Forouzanfar M, Javitz H, et al. Impact of evening alcohol consumption on nocturnal autonomic and cardiovascular function in adult men and women: a dose-response laboratory investigation. Sleep. 2021;44(1):zsaa135. doi:10.1093/sleep/zsaa135 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32663278/
- Burgos-Sanchez C, Jones NN, Avillion M, et al. Impact of Alcohol Consumption on Snoring and Sleep Apnea: A Systematic Review and Meta-analysis. Otolaryngology–Head and Neck Surgery. 2020;163(6):1078-1086. doi:10.1177/0194599820931087 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32513091/
本記事は公的な指針と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。飲酒量の判断は体質や健康状態によって異なります。妊娠中の方、治療中の方、服薬中の方の飲酒可否は個別に決まるもので、この記事の範囲には入りません。
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