水の量は、渇きと尿の色で決まる
「水は1日2リットル」という目安を、どこかで見たことがあると思います。この数字がどこから来たのかを辿ると、自分に必要な量の決め方が見えてきます。
英語圏には「8オンスのコップで1日8杯」という目安があります。「8×8ルール」と呼ばれるものです。
日本では、この「8×8」という言い方はほとんど使われません。代わりに見かけるのが「水は1日2リットル」です。
指している量は近いものです。8オンスは約240ミリリットル。8杯で約1.9リットルになります。ただし、日本の「1日2リットル」がこの8×8から来たのかどうかは、たどれる資料が見つかりませんでした。量が近いことと、出どころが同じであることは別の話です。
ここで確かめられるのは、出どころではなく中身のほうです。1日2リットルという量に、どれだけの裏づけがあるのか。
日本の基準は、水の量を定めていません
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」には、水の項目があります。ただし章の扱いは「(参考)」で、結論はこう書かれています。「以上より、水の目安量は定めず、本項は参考資料に留めることとした」4。
定めなかった理由として、算出に使った値は必要量ではないこと、方法の妥当性の検証が要ること、日本人の身体活動レベル別のデータがないことなどが挙げられています4。
元になった「8×8」のほうも同じです。2002年に文献をたどって検証した報告では、これを支持する科学的研究は見つかりませんでした1。健康な成人全員に同じ一つの量を当てはめる根拠は、どこにも見当たりませんでした。
「2リットル」が数えているのは、飲みものだけではありません
もうひとつ、この数字には抜け落ちた前提があります。
起源のひとつとされているのが、1945年のアメリカの勧告です2。そこには「成人にとって適切な水の量は、たいていの場合1日2.5リットルである」と書かれていました。問題は、その次の一文です。
「この量の大部分は、調理された食品に含まれている」2
後半を落として前半だけを引くと、食べ物の水も数えた合計だったはずの量が、「飲む水の量」に変わります。この勧告が「1日2リットル」の出どころだと書いた資料は、確認できていません。ただ、合計を飲水量として読む間違いが、この分野で起きてきたことは確かです。
この考え方は、その後の基準にも引き継がれています。アメリカが2004年に公表した栄養の基準は、水分が足りている成人の1日の摂取量を男性で約3.7リットル、女性で約2.7リットルとしました。飲みものと食べ物を合わせた合計で、そのうち約20%は食べ物から来ているという内訳つきです3。同じ発表で、策定した側は「1日にコップ何杯」という目安は示さないと明言しています3。
そして日本では、その割合がもっと大きくなります。

日本の食事は、水分の約半分を供給しています。海外で作られた数字をそのまま飲水量の目標にすると、多く見積もりすぎることになります。
毎日確かめられるのは、渇きと尿の色
毎日見るものが2つあります。渇きと、尿の色です。
ひとつは渇きです。米国の基準を作った側が、健康な人については渇きを目安にしてよいと明記しています3。
もうひとつは尿です。色が濃い、量が少ない、回数が減ったという変化は、飲む量が足りていない可能性を示します。腎臓は尿を濃くしたり薄くしたりして体液の量を調整しているので、その出力を見ていることになります。
そして、暑い日、運動した日、発熱した日は別扱いです。固定の数字より、条件に応じて増やすほうが理にかなっています。
量より先に、蛇口の話がある
飲む量の議論の手前に、確かめられることがもう1つあります。何が溶けている水かです。
日本の水道水には水質基準があり、鉛は0.01mg/L以下、総トリハロメタンは0.1mg/L以下と定められています7。基準内で運用されています。
そのうえで、皮膚科が金属制限食を指導するときの項目に、具体的な手順が1つ入っています。「水道水は流し始めの5分間は使用しないこと」8。
理由は配管です。止まっていた水は管の中に長く接していた分だけ、溶け出したものを含みます。流してから使えば、その分は減ります。同じ指導には「缶詰食品・缶詰飲料を摂取しない」「ステンレス製品やメッキ製品の調理器具を避ける」も並んでいます8。
これは金属アレルギーの患者に対する指導なので、全員がやることではありません。ただ蓄積の入口として水道水が挙がっているときに、実際に手が動く場所がどこかは、はっきりしています。量ではなく、最初の5分です。
もう1つ、浄水器の側にも法定の表示があります。除去対象物質12項目には溶解性鉛と総トリハロメタンが含まれ、総ろ過水量は「除去率が80%に低下するまで」を含む2つの条件の早いほうで決まっています。
「もっと飲む」ことの効果は、どこまで確かめられているか
ここまでは「足りているか」の話でした。では、足りている人がさらに増やすと何か良いことがあるのか。

結石については、さらに厳密に調べた評価があります。それによると、結石になったことがない人の予防については、比較試験がひとつも見つかりませんでした6。すでに結石になったことがある人では再発が減る可能性が示されていますが、確実性は低いと評価されています。
「結石の予防には水をたくさん」とよく言われます。確かめられているのは、いまのところ再発の側だけです。
この区別は、健康情報を読むときに何度も出てきます。「エビデンスがない」が何を意味するのかは、別の記事で整理しました。
ただし、例外があります
ここまでは健康な人の話です。
腎臓や心臓の疾患で治療中の人は、水分量が個別に決められています。この記事の範囲の外です。この記事の内容は当てはまりません。
また、水は多ければ多いほどよいものでもありません。極端に大量の水を短時間に摂ると、血中のナトリウムが薄まり、低ナトリウム血症を起こすことがあります。持久系のスポーツで報告されています。
数字が消えても、困らない
「1日2リットル」は、覚えやすく、達成したかどうかが分かりやすい。だから広まりました。
ただ、その数字の元をたどると、食品に含まれる水を数えていた勧告から後半が落ちたものでした。日本の基準はそもそも数値を置いていません。そして日本の食事は、水分の半分を食べ物から供給しています。
見るのは渇きと尿の色です。どちらも、その日の気温や運動量、体の大きさを織り込んだうえで変わります。固定の数字にはそれができません。
参考文献・参考資料
- Valtin H. “Drink at least eight glasses of water a day.” Really? Is there scientific evidence for “8 × 8”? American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology. 2002;283(5):R993-R1004. doi:10.1152/ajpregu.00365.2002 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12376390/
- Vreeman RC, Carroll AE. Medical myths. BMJ. 2007;335(7633):1288-1289. doi:10.1136/bmj.39420.420370.25 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18156231/
- Institute of Medicine, Food and Nutrition Board. Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate. Washington, DC: The National Academies Press; 2005. doi:10.17226/10925 報告公表時のリリース:National Academies(2004年2月11日)
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論「(参考)水」 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316470.pdf
- Hakam N, Guzman Fuentes JL, Nabavizadeh B, et al. Outcomes in Randomized Clinical Trials Testing Changes in Daily Water Intake: A Systematic Review. JAMA Network Open. 2024;7(11):e2447621. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.47621 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39585691/
- Bao Y, Tu X, Wei Q. Water for preventing urinary stones. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2020;2(2):CD004292. doi:10.1002/14651858.CD004292.pub4 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32045491/
- 水質基準に関する省令(平成15年厚生労働省令第101号)。鉛及びその化合物 0.01mg/L以下、総トリハロメタン 0.1mg/L以下 https://laws.e-gov.go.jp/law/415M60000100101/
- 足立厚子「金属アレルギーの対処法〜全身型金属アレルギーを中心に〜」アレルギー 2020;69(3):169-173. https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/3/69_169/_pdf
本記事は基準と研究状況の整理であり、個別の指導に代わるものではありません。腎臓・心臓の疾患で治療中の方の水分量は、個別に決められるもので、この記事の範囲には入りません。
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