肝臓をいたわりたいとき、何を見ればいいか
肝臓が担っている主な働きは八つ以上あり、解毒はそのうちの一つです。残りの七つは、ほとんど語られません。
腎臓も同じです。1日に濾過する200リットルのうち、尿として出ていくのは1%未満。残りは回収しています。
抜けている部分を知ると、「肝臓にいい」「腎臓を休ませる」といった言い方が実際に何を指しているのかが見えてきます。「デトックス」という言葉も、その一つです。
肝臓の仕事は、思っているより多い
その八つが、これです1。
八つのうち、日常会話に出てくるのは「薬や異物の処理」の一つだけです。
血液中のタンパク質のほぼすべてを作っている。この一項目だけでも、肝臓が「不要なものを処理する場所」ではなく、体の材料をつくる工場だと分かります。
この八つが体の中でどうつながっているかは、図で追うほうが早いです。
「解毒」は、処理の別名である
肝臓の「解毒」は、毒を消しているのではありません。捨てられる形に作り変えている工程です。
脂に溶けやすい物質は、そのままでは尿に混ぜて捨てられません。水に溶けやすい形へ変えて、初めて腎臓から出せるようになります。この変換は二段階で進みます2。
ここに、よく誤解される点があります。一段階目でできる中間産物は、元の物質より反応しやすく、場合によっては毒性が強くなります。二段階目が追いつかなければ、その中間産物のほうが問題を起こしうる2。
だから「解毒力を高める」という表現は、この構造を知るとかえって分かりにくくなります。一段階目を速めるのか、二段階目を速めるのかで、意味が逆にもなりうるからです。前だけ速ければ、中間産物のほうが溜まります。
腎臓は「濾す」だけではない
腎臓についても、似た単純化が起きています。基本的な働きは、血液を濾過し、必要なものを回収し、不要なものを尿として出すこと。ただ、この「必要なものを回収する」部分が非常に大きいのです。

加えて、赤血球産生を促すエリスロポエチンの産生、レニンの分泌による血圧の調節、ビタミンDの活性型への変換、血漿浸透圧の調節、長期的な酸塩基平衡の維持といった役割も担っています3。
体の中の水の量を決めているのも腎臓です。夕方に足がむくんで、朝には戻っているとき、その仕組みの一部をここが担っています。
「老廃物を出す臓器」という説明は、出ていく1〜2リットルのほうだけを見た言い方になっています。
そして、この「回収する」部分が、蓄積の話とつながります。
カドミウムの耐容週間摂取量は、腎臓の近位尿細管への影響を指標に設定されています5。近位尿細管は、濾過された200リットルのうち大部分を回収している場所です。日本人がいちばん上限に近づいている金属が標的にしているのが、この回収の場所だということになります。
腎臓は「出す量」だけでなく「戻す量」で評価されている——その理由が、こういうところにあります。
3つの臓器は、別々の仕事をしている
「解毒」はひとかたまりの能力のように語られますが、担っている場所は分かれています。
| 担当している出口 | 止まると起きること | |
|---|---|---|
| 肝臓 | 作り変えと、胆汁への送り出し | 水に溶けない物質が、送り出せない |
| 腎臓 | 尿。水に溶ける形のもの | 水溶性のものが出ていかない |
| 腸 | 便。胆汁に出されたもの、吸収されなかったもの | 腸に置かれた時間が延びる |
この3つは連続していて、順番があります。肝臓が胆汁に出したものは腸を通ります。肝臓だけが速くても、腸が動いていなければ外へは出ていません。
だからこの3つを別々に見る意味があります。どこが足を引っ張っているかで、手をつける場所が変わるからです。順番としては、出口に近いほうが先になります。
肝臓を「休ませる」と、何が起きるのか
ここまで見ると、デトックスの説明でよく使われる「臓器を休ませる」という言い方が、少し据わりの悪いものに見えてきます。
肝臓は血漿タンパク質を作り続けています。腎臓は再吸収を続けています。これらは、断食や特定の食事によって止めたり再開したりできる作業ではありません。
むしろ、第II相の抱合反応には糖やアミノ酸から作られる材料が必要で、これらは栄養状態に依存します。何かを控えることが処理を助けるのか妨げるのかは、控える内容次第ということになります。
ただし、ここも正確に言っておきます。特定の食事法が肝臓や腎臓の機能にどう影響するかについて、質の高い検証はほとんど行われていません。「休ませたほうがいい」も「休ませないほうがいい」も、現時点では十分な根拠を伴っていない。研究がないことは、どちらかが正しいことの証明にはなりません。
機能が落ちているかどうかは、測れる
実務的に役に立つのは、これらの臓器の働きが検査で評価できる、という点でしょう。
肝臓についてはAST・ALT・γ-GTPといった酵素の値や、ビリルビン、アルブミン、凝固能。腎臓については推算糸球体濾過量(eGFR)や血清クレアチニン、尿中のタンパクなど。健康診断で測られている項目の多くは、この二つの臓器の働きが落ちていないかを調べるものです。
これらの数値が正常範囲にあるなら、機能が落ちている状態ではないと考えるのが素直です。逆に、数値が動いているなら、汎用の「デトックス」ではなく、その原因を確かめることが先になります。
働きを知ると、言葉の輪郭が変わる
肝臓の八つの働きのうち、日常会話に出てくるのはほぼ一つだけでした。腎臓についても、出ていく側だけが語られていました。
切り取ること自体は必要な単純化で、それがなければ話が始まりません。ただ、切り取られた一部が全体の代わりになると、そこから先の推論が歪みます。「解毒の臓器だから、解毒を助けるものを摂る」という筋道が、その一例です。
八つのうち「胆汁をつくる」については、別に書きました。尿から出せない物質の主要排泄経路がそこで、教科書は出されるものに重金属を挙げています。そして「薬や異物の処理」の中身は、二段階の作り変えです。
肝臓や腎臓のためにしていることがあるなら、それが八つの仕事のどれに向けたものかを確かめてみる。どれにも当てはまらないなら、それが向いているのは臓器ではなく、臓器のイメージのほうです。
参考文献・参考資料
- Kalra A, Yetiskul E, Wehrle CJ, Tuma F. Physiology, Liver. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年5月1日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK535438/
- Phang-Lyn S, Llerena VA. Biochemistry, Biotransformation. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年8月14日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK544353/
- Ogobuiro I, Tuma F. Physiology, Renal. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 最終更新 2023年7月24日. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK538339/
- Curthoys NP, Moe OW. Proximal tubule function and response to acidosis. Clinical Journal of the American Society of Nephrology. 2014;9(9):1627-1638. doi:10.2215/CJN.10391012 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23908456/
- 内閣府食品安全委員会「食品から摂取されるカドミウムの健康影響評価」(2008年7月3日)。耐容週間摂取量の設定根拠として、腎臓(近位尿細管)への影響が指標とされています https://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-iinkai240-cadmium.pdf
本記事は生理機能の整理であり、特定の食事法・製品の推奨や否定、個別の診断・治療に代わるものではありません。
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