疲労の原因が貧血だったのは2.8%。ただし貧血がなくても鉄は減る
疲労を主訴に受診した人のうち、原因が貧血だったのは2.8%でした。いちばん多いのは睡眠障害とうつ病です。
ただし逆のことも起きています。ヘモグロビンの基準をクリアした400mL献血者を調べた研究では、初回・再開の女性献血者のおよそ3分の1に鉄欠乏が見つかりました。「貧血なし」は「鉄が足りている」ではありません。
疲れと鉄は、両側から外れます。そして厚生労働省は、自己判断での鉄サプリメントの利用を控えるようはっきり書いています。
まず、疲労の原因の内訳
疲労を主訴に受診した人を調べた総説によれば、原因の分布はこうなっています1。
鉄から入るより先に、睡眠のほうを確かめるほうが当たりやすい、ということになります。飲酒の習慣も、ここに含まれます。
そのうえで、鉄の話に入ります。
ヘモグロビンが正常でも、貯蔵鉄は別
健康診断で見る貧血の指標はヘモグロビンです。一方、体に蓄えられている鉄の量を反映するのがフェリチンで、これは通常の健診項目には入っていません。
この差が実際にどれくらいあるのか。日本赤十字社が400mL全血献血者2,659名を調べた研究では、初回・再開の女性献血者のおよそ3分の1に鉄欠乏が見られました2。
献血者は、ヘモグロビンの基準をクリアした人たちです。それでも貯蔵鉄のほうは減っていることがある。「異常なし」が答えている問いは狭いのは、ここでも同じです。
ただし、フェリチンには読み方がある
ではフェリチンを測れば分かるのか、というと、ここに落とし穴があります。
日本鉄バイオサイエンス学会の診療指針は、こう書いています。
血清フェリチンは悪性腫瘍,肝障害,感染症,炎症などの存在下では貯蔵鉄量とは無関係に上昇するため,血清フェリチンが正常範囲であっても鉄欠乏が除外できない3。
WHOも同じ問題に対応していて、感染や炎症が広がっている地域では、フェリチンと同時にCRPなどの炎症マーカーを測るべきだとしています4。
つまりフェリチンは、一点の数値だけでは読めない検査です。低ければ鉄欠乏の可能性が高いのは確かですが、正常だからといって鉄欠乏がないとは言えません。
鉄を補うと、何が変わるのか
貧血がない鉄欠乏の人が鉄を補うと、自覚する疲労は減りました。ただし、運動で測る持久力は変わりませんでした。18件の試験(計1,170名)を集めた系統的レビューの結果です5。

変わったのは自覚のほうで、走れる距離や持てる重さは変わっていません。
なお、これらの試験で使われたのは医療用の鉄剤(元素鉄80mg/日など)や静注鉄で、市販の栄養機能食品とは量も剤形も違います。栄養機能食品として鉄を表示できる上限は1日10mgです6。研究の結果をそのまま当てはめることはできません。
厚生労働省が明記していること
ここが、この記事で最もはっきりしている部分です。食事摂取基準2025年版には、こう書かれています。
鉄欠乏でない人が鉄の摂取量を増やしても貧血の予防にはつながらない。鉄欠乏又は鉄欠乏性貧血の場合の鉄補給は必要であるが、医師の指示に従って実施するものであり、個人の判断でサプリメント等を用いて鉄補給を行うことは控えるべきである7。
2025年版では鉄の耐容上限量の設定が見合わせられました。同じ報告書が、その理由も書いています。定量的な関係が明確でないため設定を見合わせた、そのうえで推奨量を大きく超える摂取は控えるべきだ、と7。
食事だけでは埋まらない場合
月経の量が多い場合は、食事だけでは埋まりません。月経の変化そのものが気になっているなら、確かめる順番は別にあります。食事摂取基準はこの点にも触れていて、過多月経の人については推定必要量が大きく上がるため、医療機関を受診して基礎疾患の有無を確認したうえで鉄補給を受ける必要があるとしています7。
そのほか、疲労が数週間以上続く、体重が減っている、息切れや動悸がある、便が黒い。これらは鉄だけで説明がつく組み合わせではありません。鉄を足して様子を見ると、別の原因が隠れたままになります。
順番を間違えないこと
もう1つ、鉄には酸素運搬以外の役割が挙げられています。RESONA-LABの結果報告書は、鉄の「解毒への関与」として「肝臓の代謝酵素の補因子」と記しています9。異物を処理する第I相の中心はシトクロムP450という酵素群です。
ただし、これは「解毒のために鉄を足す」理由にはなりません。この記事で見たとおり、疲労を主訴に受診した人のうち原因が貧血だったのは2.8%。順番は変わらず、足りているかを先に確かめるほうです。フェリチンには読み方があり、炎症で上がります。
鉄が足りていない人は、実際にいます。問題は、確かめる前に足してしまうことです。
日本人女性の鉄摂取量は20〜40代で1日6.3〜6.6mg、推奨量は月経がある場合で10.0〜10.5mgでした87。ただしこれは集団の平均であって、自分の話ではありません。
「疲れやすい=鉄が足りない」と直行すると、確率の高いほうを飛ばすことになります。疲労の原因として最も多いのは睡眠とうつ病で、貧血は2.8%でした。睡眠の側は、検査の指標と本人の感覚がずれることが分かっています。
そのうえで鉄を疑う理由があるなら、次は自分で買うことではなく測ることです。ただしフェリチンは一点では読めず、正常値でも鉄欠乏を除外できません。検査はそれぞれ違う問いに答えているので、何を知りたいかを先に決めるところからです。炎症の有無と並べて初めて読める数値なので、数字を1つ持つだけでは足りません。
参考文献・参考資料
- Maisel P, Baum E, Donner-Banzhoff N. Fatigue as the Chief Complaint—Epidemiology, Causes, Diagnosis, and Treatment. Deutsches Ärzteblatt International. 2021;118(33-34):566-576. doi:10.3238/arztebl.m2021.0192 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34196270/
- Odajima T, Tsuno NH, Ishimaru F, et al. Iron deficiency among Japanese whole-blood donors measured by serum ferritin. Vox Sanguinis. 2024;119(9):912-920. doi:10.1111/vox.13688 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38872445/
- 日本鉄バイオサイエンス学会「鉄欠乏性貧血の診療指針【第1版】」2024年7月 https://jbis.bio/pdf/public_comment.pdf
- World Health Organization. WHO guideline on use of ferritin concentrations to assess iron status in individuals and populations. Geneva: WHO; 2020. https://www.who.int/publications/i/item/9789240000124
- Houston BL, Hurrie D, Graham J, et al. Efficacy of iron supplementation on fatigue and physical capacity in non-anaemic iron-deficient adults: a systematic review of randomised controlled trials. BMJ Open. 2018;8(4):e019240. doi:10.1136/bmjopen-2017-019240 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29626044/
- 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)別表第十一 e-Gov法令検索
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 ミネラル(微量ミネラル)鉄 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316469.pdf
- 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf
- RESONA-LAB 検査結果報告書(人用・試供品サンプル)の記載による。報告書の見本は公式サイトで公開されています https://resona-lab.com/humans
本記事は公的な基準と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の商品の効果を示すものでもありません。食事摂取基準は、鉄欠乏の場合の補給を医師の指示のもとで行うものとしています。
SNSでフォロー
最新記事や、ここだけのコンテンツをお届けします。