睡眠アプリの数値を、どこまで当てにするか
7時間は寝たはずなのに、朝から疲れが残っている。寝方が悪いのか、体に問題があるのか。まず、時間と休まり方は別ものだというところから整理します。
睡眠研究の側でも、時間や検査上の指標と、本人が感じる休まり方のあいだにずれがあることは、繰り返し観察されています。
検査で測れる睡眠は、休まった感覚をほとんど説明しない
睡眠を客観的に測る標準的な方法が、睡眠ポリグラフ検査(PSG)です。脳波、眼の動き、筋肉の緊張などを一晩記録し、睡眠の深さを段階として捉えます。
カプランらは2017年、このPSGの指標が、翌朝に本人が答える「昨夜の睡眠の質」をどれくらい説明できるかを調べました。複数の変数を組み合わせたモデルを作っても、本人が感じた睡眠の質のばらつきのうち説明できたのは11〜17%にとどまりました1。

著者らの結論は率直です。一般に用いられているポリグラフ上の睡眠指標は、前夜の睡眠の質に対する主観的評価をほとんど説明しなかった1。
「深い睡眠が取れていないから疲れが残る」という説明はよく聞きますが、少なくともこの研究では、深い睡眠の量は本人の実感と結びついていませんでした。
この結果は、二通りに受け取れる
ひとつは「検査は当てにならない」。もうひとつは「休まった感覚は、睡眠の構造だけでは決まらない」。
研究の側では、後者に近い読み方をします。PSGは睡眠中に起きていることを詳細に記録しますが、朝の疲労感には、日中の負荷、心理的な状態、痛みや不快感、生活のリズムなど、睡眠時間外の要因も入ってきます。夜だけを見て説明しきれないのは、ある意味で当然でもあります。
ただし、この研究が測ったのは健康な範囲での主観と客観のずれです。睡眠に病的な問題がある場合は、また別の話になります。
そのうえで、確かめておきたいこと
先に1つ言っておくと、「朝すっきりしない」は、あらゆる説明が名乗りを上げる症状です。
検査結果の症状一覧にも、サプリメントの広告にも、この一文はほぼ必ず入っています。一般の人1,000人の調査では、過去7日間に症状がまったくなかった人は10.6%で、経験した症状の数は中央値5個でした。当てはまったことは、原因が決まったことを意味しません。
だから確かめる順番は、当てはまるかどうかではなく、数えられるものからになります。
朝の疲労感が続くとき、時間を増やす前に見ておく価値があるものがいくつかあります。
ひとつは、床にいる時間と眠っている時間の差です。カプランらの研究で最も強く関連していたのは睡眠効率でした1。長く床にいても、その多くが浅い覚醒で埋まっていれば、時間の数字は足りていても実態は違います。
前夜に飲酒した日かどうかも、分けて見る価値があります。寝つきは良くなる一方で、後半の眠りは質が下がることが、同じ指針にも書かれています。
ふたつめは、就寝と起床の時刻のばらつきです。合計時間が同じでも、日によって大きくずれていれば体のリズムは安定しません。
みっつめは、夜間の呼吸です。いびきを指摘されたことがある。寝ている最中に呼吸が止まっていると言われた。日中の眠気が強い。この3つは、睡眠時無呼吸で見られるものです。そして自分の記録では確かめられません。寝ている間のことなので、測るには検査が要ります。
数字を追いかけすぎない
公的指針が「質」として見ているのは、装置の数値ではなく朝の休養感のほうです。ウェアラブル端末が「深い睡眠 32分」といった数字を出してくれる時代になりました。ただ、これらの機器が推定している睡眠段階は、PSGとは測っているものが違います。そしてPSGで測った段階が休まった感覚をあまり説明しないことは、上で見たとおりです。
数字が悪いと不安になり、その不安がさらに眠りを妨げる。そんな循環も起こりえます。指標を見ること自体が悪いのではなく、その指標が何を意味しているかを知らずに追いかけると、判断がぶれます。
検査値と体感が一致しないという状況は、睡眠に限った話ではありません。健康診断で異常がなくても不調が続くことと、構造としては同じところがあります。集団の平均を個人に当てはめるときに残る隙間の問題でもあります。
公的な指針も、感覚のほうを指標にしている
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人への推奨を2本立てで示しています。適正な睡眠時間を確保することと、睡眠休養感を高めることです2。時間だけを目標にしていません。
睡眠休養感が独立した指標として扱われているのには理由があります。ガイドが引く米国の縦断調査では、睡眠休養感の低下が、寝つきの悪さや頻回の中途覚醒といった不眠症状とは独立して、うつ病発症と関連することが示されています2。日本の追跡調査でも、代謝機能障害との関連が報告されています2。
いずれも関連で、因果までは確かめられていません。ただ、朝の感覚が「検査で測れないから軽い情報」というわけではないことは、この扱われ方からも読み取れます。
朝の感覚は、それ自体が情報である
検査で説明がつかなくても、朝の疲労感が「気のせい」になるわけではありません。本人が感じていることは、いまのところ最も直接的なデータです。
むしろ、機器の数字より自分の記録のほうが役に立つ場面もあります。何時に寝て何時に起きたか、途中で目が覚めたか、前日に何があったか。1〜2週間分並べると、時間の長さ以外の要因が見えてきます。
なお、朝起きられない状態が続いているのが小児・思春期なら、別の見方があります。起立性調節障害には診断基準と検査があり、一般の中学生の約1割にみられると報告されています。
「時間は足りているのに」という違和感は、そのまま受け取っていいものです。足りていないのが時間ではない、というだけのことがあります。
参考文献・参考資料
- Kaplan KA, Hirshman J, Hernandez B, et al. When a gold standard isn’t so golden: Lack of prediction of subjective sleep quality from sleep polysomnography. Biological Psychology. 2017;123:37-46. doi:10.1016/j.biopsycho.2016.11.010 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5292065/
- 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会「健康づくりのための睡眠ガイド2023」令和6年2月 https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
本記事は研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。
SNSでフォロー
最新記事や、ここだけのコンテンツをお届けします。