「朝起きられない」に、診断基準と検査がある
同じ症状に対して、日本には診断基準と検査があります。
朝、どうしても起きられない。昼を過ぎると動けるようになる。夜は眠れない。
この並びは、しばしば生活習慣の問題として扱われます。
起立性調節障害(OD)と呼ばれる病態です。
診療ガイドラインは、これを本質的には身体疾患に分類されると記しています1。
中学生の、およそ1割
珍しい病態ではありません。疫学調査では、一般の中学生の約1割、小児科を受診する中学生の約2割を占めると報告されています1。
症状は立ちくらみ、動悸、強い倦怠感、頭痛、腹痛と多彩で、慢性化や再燃をくり返す例では、不登校や登校困難につながることもあります。
11項目のうち、3つ
診断は、まず症状の確認から始まります。ガイドラインが挙げる身体症状は11項目です1。

ここで注目したいのは、「朝起き不良」が11項目のうちの1つでしかないことです。朝起きられないことだけを見ていると、他の10項目が視野に入りません。
起立したときの動きで、4つに分かれる
症状が揃ったら、次は検査です。新起立試験と呼ばれます。
やることは単純で、10分間横になったあと立ち上がり、血圧が戻るまでの時間と、起立後の血圧・心拍数の変化を見ます1。特別な装置がなくても一般の小児科外来で実施できるよう設計されていて、午前中に行うと陽性率が高まるとされています。
| 型 | 起立したときに起きること |
|---|---|
| 起立直後性低血圧(INOH) | 立った直後に血圧が急に下がり、戻るのが遅い |
| 体位性頻脈症候群(POTS) | 血圧は下がらないが、心拍数が著しく上がる |
| 遷延性起立性低血圧(DeOH) | 立った直後は正常。3分以上経ってから血圧が下がる |
| 血管迷走神経性失神(VVS) | 反射的に血管が広がり、心拍が下がる |
POTSについては、ガイドラインが特徴を書き分けています。立ちくらみよりも、頭痛や強い倦怠感が目立つとされています1。立ちくらみがなくても、POTSは外れません。
先に、別の原因を外す
同じ症状を起こす別の病態があります。ガイドラインは、除外すべきものを具体的に挙げています1。
鉄欠乏性貧血が並んでいることは、覚えておく価値があります。倦怠感の原因として鉄を考える順番は、ここでも同じです。
そして改訂第3版で新たに明記された項目があります。一部の薬剤が症状を誘発・増悪させることがあるという点です。ADHD治療薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、カルシウム拮抗薬、抗コリン薬、三環系抗うつ薬などが挙げられています1。
自分で薬をやめる話ではありません。飲んでいるものがあるなら、それを医師に伝える理由になります。飲んでいるものを全部伝えるのは、ここでも効いてきます。
つまり、ODと決まる前に確かめられるものが、いくつもあります。血液検査で分かるものも含まれています。
「体の問題」と「心の問題」を、分けない
ODは身体疾患です。同時に、心理社会的な要因も症状に関わります。どちらか一方ではありません。
ガイドラインは、ODを身体疾患に分類したうえで、睡眠リズムの乱れ、運動不足、心理的ストレス、学校や家庭の環境要因が、発症や症状の増悪に関与することも記しています1。
思春期は内分泌系・神経系・循環器系が急激に変化する時期で、そこに心理社会的なストレスが加わると、循環を調節する仕組みが追いつかなくなる。ガイドラインはそう説明しています1。
身体か心か、という二択で考えないこと。これはODに限った話ではありませんが、この病態ではとくにはっきりしています。複数の要素を協調させて診る、という考え方が、ガイドラインの側から要請されている珍しい例です。
体を動かさない時間が、病態の一部になる
第3版で扱いが変わったものが、もう一つあります。デコンディショニングです。
長期の臥床など、体を動かさない時間が続くことで循環の調節能力が落ちる現象を指します。海外のガイドラインでは「除外すべきもの」に挙げられていますが、日本の第3版では除外ではなく、ODの病態生理に深く関わるものとして記載されています1。
症状があるから動けない、動けないから症状が続く。この循環そのものが、病気の一部として扱われています。
基準を満たさなかったときも、終わりではない
新起立試験を受けても、診断基準を満たさない場合があります。
第3版は、この場合の対応も書いています。検査時にたまたま循環の異常が再現されないこともあれば、傾向はあるが基準に届かない例、新起立試験では評価が難しい型もあります。そのうえで、明らかな器質的異常がなくても、日常生活に支障をきたす起立不耐症状が続くなら、ODとしての包括的な対応を検討するとしています1。
確定診断にこだわるよりも、症状の経過や生活習慣、心理社会的要因を含めた総合的評価を行い、その子どもに必要な支援を判断する姿勢の重要性が強調されている
診断名がつかないことと、支援が要らないことは別だ、という立場です。
受診するとき、何を持っていくか
相談先は小児科です。新起立試験は一般の小児科外来で実施できるよう設計されています。
| 内容 | |
|---|---|
| 症状 | 11項目のうち当てはまるもの。いつから、どの時間帯に |
| 時間帯の記録 | 起床時刻、動けるようになる時刻、就寝時刻を1〜2週間分 |
| 飲んでいるもの | 処方薬・市販薬・サプリメントすべて |
| 生活の変化 | いつから、何が変わったか |
検査は午前中のほうが陽性率が高いとされているので、受診の時間帯も相談してみてください。
名前がつくことの意味
名前がつくことの効き目は、その反対側を見ると分かります。
名前のつかない症状の一覧は、9割の人に当てはまります。「朝がつらい」「立ちくらみ」「疲れやすい」だけなら、どの説明も同じくらい当てはまってしまう。
この記事で見てきた診断基準は、当てはまりを数えるのではなく、起立時に血圧と心拍がどう動いたかを測っています。検査で数値を出し、他の疾患を除外して、初めて名前がつく。だから名前がついたあとには、やることが決まります。
この病態について書いておきたいのは、診断がつくかどうかより前の部分です。
朝起きられないことが「怠け」として扱われるとき、子どもは症状と評価の両方を抱えます。11項目の症状表と、立ち上がったときの血圧と心拍という測れるものがあることは、それ自体が支えになります。
一方で、名前がついたあとに何をするかは、そこからの話です。ガイドライン自身が、身体・心理・社会を分けずに見ることを求めています。検査が答えている問いは、いつも思っているより狭い。ここでも同じです。
参考文献・参考資料
- 石井和嘉子.「小児起立性調節障害診療ガイドライン改訂第3版」の概説. 日大医学雑誌. 2026;85(2):51-57. doi:10.4264/numa.85.2_51 https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/85/2/85_51/_article/-char/ja ガイドライン本体:起立性調節障害ワーキンググループ「小児起立性調節障害診療ガイドライン」(日本小児心身医学会編『小児心身医学会ガイドライン集』改訂第3版, 南江堂, 2025年) 学会の一般向け解説:日本小児心身医学会
本記事は診療ガイドラインの整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。診断と治療方針は医師の判断によります。症状の項目に当てはまることは、診断がついたことを意味しません。服用中の薬を自己判断で中止・変更しないでください。起き上がれない状態が続く、失神をくり返す、日常生活に支障が出ている。これらは、記事の内容で判断する範囲にありません。
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