「頭痛薬をよく飲む」の“よく”は、月に何日からか
線は月10日です。トリプタンや複合鎮痛薬なら月10日、アセトアミノフェンやイブプロフェンのような単独成分なら月15日。国際的な診断基準に、数字で書かれています。
そして引かれているのは飲んだ量ではなく、飲んだ日数です。1日に何錠飲んでも、1日と数えます。市販薬の説明書に「何日から」と書かれていないため、この線はほとんど知られていません。
線は、薬によって違う
基準は薬の種類ごとに置かれていて、位置が二つに分かれます。

アセトアミノフェンやイブプロフェンのような単独成分の鎮痛薬は、月15日が線です。片頭痛の薬であるトリプタンは、月10日。
そして、注意が必要なのが複合鎮痛薬です。こちらも10日側に入ります。
複合鎮痛薬とは、2種類以上の系統の薬、あるいはカフェインのような補助成分を組み合わせた製剤を指します1。市販の鎮痛薬には無水カフェインなどを含むものが少なくありません。成分表示を見ないと、自分がどちら側の線にいるのか分かりません。
別の薬に変えても、足される
ここがいちばん知られていない部分です。

「同じ薬を続けないように、別のものと交互に使っている」という飲み方は、この基準では回避になりません。
さらに、どの薬も単独では基準に届かない場合でも、合計で月10日以上になれば該当しうる区分が別に用意されています1。数えるべきは薬ごとの日数ではなく、頭痛のために何か飲んだ日の総数です。
なぜ日数で線を引くのか
この基準は「薬が体に悪いから」ではなく、痛み止めを飲む日が多いほど頭痛の日も増える現象があるために引かれています。「薬剤の使用過多による頭痛」と呼ばれます。
頭痛が月15日以上ある人のうち、半分以上がこの状態にあたると ICHD-3 は記しています1。頻繁な頭痛の背景として、珍しいものではありません。
日本での頻度については、正直に書いておきます。『頭痛の診療ガイドライン2021』は「わが国における大規模疫学調査は存在しない」と明記しています2。「日本人の何%」という数字は、まだ誰も持っていません。調べられていないことと、頻度が低いことは別です。海外の一般人口を対象とした系統的レビューでも、有病率の推計は0.5〜7.2%と大きく開いています3。
それでも「やめましょう」とは書けない
ここまで読むと、自分で薬を止めるという結論に向かいそうになります。この記事はそれを勧めません。理由が三つあります。
一つ目は、薬によって止め方が違うことです。ガイドラインは、トリプタン・エルゴタミン・NSAIDs・複合鎮痛薬・単純鎮痛薬は重い離脱症状を起こさないため即時中止でよいとする一方、バルビツール、ベンゾジアゼピン、オピオイドを含むものは漸減が最善としています2。市販薬にも鎮静成分を含む製剤があり、自分の飲んでいるものがどちらかを成分表示だけで判断するのは簡単ではありません。
二つ目は、止めた後に頭痛が来ることです。離脱に伴う頭痛・悪心・嘔吐・睡眠障害などは、通常2〜10日続くとされています2。何も知らずに止めれば、そこで耐えきれず再開することになります。
三つ目が、構造として最も大きい点です。ガイドラインが挙げる治療の原則は、①原因薬剤の中止、②中止後に起こる頭痛への対処、③予防薬の投与の三つで一組です2。
薬を飲む日数が増えているとき、その前提には抑えきれていない元の頭痛があります。診断基準自体が「もともと頭痛疾患をもつ患者において」と定めているとおりです1。②と③を用意せずに①だけを実行するのは、原因を残したまま対処だけを取り上げることになります。
見通しとしては悪い話ではありません。ガイドラインは、離脱により1〜6ヵ月で約70%が改善する一方、4〜6年の追跡で約30%が再発し、その多くは1年以内としています2。7割は良くなり、3割は戻る。一度で終わる話ではありません。
したがって、この記事が勧めるのは止めることではなく、数えることです。月に何日飲んでいるか。それが分かって初めて、次の判断ができます。
記録に、もう一つ足すもの
日数と並べて役に立つのが、自分の頭痛がどういう頭痛なのかという情報です。というのも、線の位置(10日か15日か)は、飲んでいる薬で決まり、飲む薬は頭痛の型で決まるからです。
医師が片頭痛と緊張型頭痛を分けるとき、意外な項目が使われています。
痛みの強さではなく、動いたときにどうなるか。これが両者を分ける項目の一つとして、診断基準に書かれています。
この違いは対処にも表れます。片頭痛について、ガイドラインは発作中の対処として「静かな暗い場所で休む、痛む箇所を冷却する、入浴を控える」を挙げています2。一方、緊張型頭痛では運動プログラムが有効な可能性があるとして、頭痛体操が弱い推奨とされています2。
片頭痛は発作中に動くと悪化し、緊張型頭痛は体を動かすことが治療の側に入ります。ただし片頭痛でも、発作中と発作のない期間は別です。予防としての有酸素運動は否定されていません2。
そして重要な前提として、これは自己判定の道具ではありません。診断基準は4項目中2項目以上で満たされる構造で、両者が併存することもガイドラインに記されています2。動作で悪化するかどうかだけでは、分かれません。
数えている場合ではないとき
ここまでは、頭痛が続いている場合の話です。次に挙げるものが当てはまるときは、日数を数える段階にありません。
二次性頭痛を疑うべき所見をまとめた「SNNOOP10」という一覧があります4。発熱を伴う、がんの既往がある、神経症状がある、突然発症した、50歳以降に始まった、頭痛のパターンが変わった、姿勢で変化する、咳やくしゃみで誘発される、進行している、妊娠中・産褥期である、外傷後に始まった、といった項目が並びます。
そして一覧の最後、15項目目に置かれているのが「鎮痛薬使用過多」です4。頭痛薬を飲む日数が多いこと自体が、二次性頭痛を疑って診てもらうべき状況として挙げられています。
特に、今まで経験したことがない突然の激しい頭痛は、くも膜下出血の典型的な症状として、ガイドラインに強い推奨・エビデンスの確実性Aで記されています2。頭部CTでの診断率は発症6時間以内なら100%ですが、3日後には85%、7日後には50%まで下がります2。時間が経ってからでは分からなくなります。
数えるところから始まる
数えられるものは、思っているより限られています。
症状の一覧に当てはまるかどうかは、数えたことになりません。9割の人が当てはまるからです。対して「今月、薬を飲んだ日数」は、当てはまる・当てはまらないではなく、日数です。
同じ形のものがいくつかあります。便通の6項目。家庭血圧の14回分の平均。睡眠休養感。どれも、感覚を数に変える手続きが決まっています。
頭痛は、受診されにくい症状です。日本の全国調査では、片頭痛のある人の69.4%が頭痛について医師に相談したことがなく、自分の頭痛が片頭痛だと認識していた人は11.6%でした5。1997年の調査ですが、2022年の健保組合を対象とした調査でも受診なしが81.0%と報告されており、構造は大きくは変わっていません6。
その一方で、ガイドラインは薬剤の使用過多による頭痛は予防可能だとしています2。予防できるのは、線がどこにあるかを知っている場合だけです。
今日からできるのは、血圧を記録するのと同じように、頭痛のために薬を飲んだ日にしるしをつけることです。飲んだ量ではなく、日にちの数。
それが月10日を超える月が3ヵ月以上続いているなら、自分で急に止めるのがいちばん危ない選択です。離脱には反跳頭痛が伴うため、いきなり止めると数日は悪化します。その記録があるかどうかで、始め方が変わります。
参考文献・参考資料
- Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS). The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. Cephalalgia. 2018;38(1):1-211. doi:10.1177/0333102417738202 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29368949/ 日本語版(日本頭痛学会):https://www.jhsnet.net/kokusai_new_2019.html
- 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 監修、「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編『頭痛の診療ガイドライン2021』医学書院, 2021年. https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf(CQ I-14, CQ II-2-2, CQ III-2, CQ III-7, CQ VI-2, CQ VI-3, CQ VIII-4)
- Westergaard ML, Hansen EH, Glümer C, Olesen J, Jensen RH. Definitions of medication-overuse headache in population-based studies and their implications on prevalence estimates: a systematic review. Cephalalgia. 2014;34(6):409-425. doi:10.1177/0333102413512033 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24293089/
- Do TP, Remmers A, Schytz HW, et al. Red and orange flags for secondary headaches in clinical practice: SNNOOP10 list. Neurology. 2019;92(3):134-144. doi:10.1212/WNL.0000000000006697 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30587518/
- Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997;17(1):15-22. doi:10.1046/j.1468-2982.1997.1701015.x https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9051330/
- Sakai F, Hirata K, Igarashi H, et al. A study to investigate the prevalence of headache disorders and migraine among people registered in a health insurance association in Japan. The Journal of Headache and Pain. 2022;23(1):70. doi:10.1186/s10194-022-01439-3 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35733104/ ※本論文には正誤表があります(doi:10.1186/s10194-022-01529-2)。また著者らは後続論文で、質問票による片頭痛の分類に誤分類があったと報告しています(doi:10.1186/s12883-024-03675-3)
本記事は診断基準とガイドラインの整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の医薬品・製品の効果や優劣を示すものでもなく、使用を勧めるものでもありません。頭痛の診断と治療方針は医師の判断によります。服用中の薬を自己判断で中止・変更しないでください。
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