お腹の張りを、減らす方向から考え直す
小麦、タマネギ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつ。
この9つには共通点があります。小腸で分解・吸収されにくく、そのまま大腸に達して、腸内細菌にすばやく発酵・分解される糖を多く含みます1。
結果として2つのことが起きます。水素ガスやメタンガスが発生すること。そして高浸透圧性によって、腸管内に水分を引き込むことです1。
なぜ、この9つが一緒に挙がるのか
小麦とタマネギとリンゴと牛乳は、食品としては何の関係もありません。共通しているのは含まれている糖の性質です。
FODMAPは、次の4つの頭文字です1。
| 頭文字 | 内容 |
|---|---|
| F | fermentable(発酵性) |
| O | oligosaccharides(オリゴ糖) |
| D | disaccharides(二糖類) |
| M | monosaccharides(単糖類) |
| P | polyols(糖アルコール) |
つまり「発酵しやすい短い糖」のまとまりです。食品の種類ではなく、糖の種類で束ねられています。

この機序が分かると、お腹の張りが「食べた量が増えたから」だけでは説明できない理由も見えてきます。増えているのは、食べたものの体積ではなく、ガスと水分のほうです。
そして乳糖不耐症は、この構造がいちばんはっきり分かっている例です。二糖類(D)にあたります。ガイドラインは、乳糖不耐症のIBS患者について、ラクトース制限食を6週間摂取することで症状が有意に改善したという報告を挙げています1。
どこまで確かめられているか
ガイドラインの記述を、そのまま引きます。
IBS患者では、低FODMAP食の摂取により、一般の食事に比べ、IBS症状を軽減することが欧米を中心に複数の無作為比較試験より示されているが、本邦における低FODMAP食の受容性、有効性に関してはさらなる検討が必要である1
2つのことが同時に書かれています。欧米では複数のRCTで示されている。日本ではこれから。
「受容性」というのは、実行できるかどうかの話です。除去には栄養・生活・戻しにくさという三方向のコストがあります。小麦とタマネギと牛乳を同時に外す食事が、日本の食卓でどれだけ続けられるかは、別に確かめる必要があります。
盲検にすると、犯人が変わる
この分野には、印象的な試験があります。
自分でグルテンが合わないと考えている人を対象に、本人にも研究者にも中身が分からない形で行われた試験です。
| 試験 | 結果 |
|---|---|
| 2013年 | 低FODMAP食にすると参加者全員の消化器症状が一貫して改善。その後グルテンを負荷しても、対照のホエイを負荷しても同じように悪化。グルテンに特異的な反応は8%だけ |
| 2018年 | グルテン・フルクタン・プラセボを盲検で割り付けたところ、症状が最も強く出たのはフルクタン。グルテンとプラセボのあいだに差はなかった |
フルクタンは、FODMAPのO(オリゴ糖)にあたります。小麦とタマネギに多く含まれます。
つまり「小麦が合わない」と感じていた人の多くで、実際に症状を出していたのはグルテン(たんぱく質)ではなく、フルクタン(糖)のほうだった、ということになります。
自分の感覚だけでは、犯人を決められないという話の、いちばん明快な実例です。
全員に共通することと、個別に決めること
ガイドラインは、食事指導を2つに分けています。
IBS患者に対する食事指導・食事療法に関しては、すべての患者に共通した有用な事項と個々に異なる対応事項とに分けて検討することが必要である。間食や欠食を慎み、規則的な食事習慣を心がけることはすべての患者に共通する項目である。一方、症状を助長させる食品や食事成分を認識し、制限することは患者ごとに対応するべき項目である1
「まず規則的に食べる」が、全員共通の側にあります。個別の食品を外すのは、そのあとです。
これは順番の話として、この媒体で何度か出てきた形と同じです。出口が先、上流があと。足すかどうかの前に、足りているかどうか。
やるなら、どういう形になるか
低FODMAP食は、ずっと続ける食事ではありません。合わないものを見つけるための手順です。
形は、この媒体で繰り返し書いてきたものと同じになります。
| やること | |
|---|---|
| 1 | 期間を決めて、対象を減らす |
| 2 | 1つずつ戻して、変化を比べる |
| 3 | 反応が出なかったものは、戻したままにする |
| 4 | 効かなかったら、期限で区切ってやめる |
4番目が抜けやすいところです。皮膚科が金属制限食を指導するときは「2ヶ月続けて無効であれば速やかに中止する」と決められています。同じ形です。
そして、FODMAPを含む食品の多くは、食物繊維の供給源でもあります。小麦、豆類、タマネギ。日本人の食物繊維の摂取量は、目標量に10g近く足りていません。減らす対象が、そのまま栄養の供給源になっている——この構造は、ここでも同じです。
だから期間を決めることに意味があります。
自分でやる前に、確かめること
1つ、はっきりさせておきます。ここで扱ったのは、診療ガイドラインに書かれている内容です。対象はIBSと診断された患者で、その食事指導の話です。
そしてお腹の張りには、この記事で扱っていない原因もあります。体重が意図せず減っている、血が混じる、夜間に症状で目が覚める、発熱が続いている。こうしたことがあるなら、食事を変える前の段階です。
それ以外の場合、この記事から持って帰れるのは2つです。
1つめ。お腹の張りの機序は、かなりの部分まで分かっています。小腸で吸収されなかった糖が、大腸でガスと水分を作る。体質でも、気のせいでもありません。
2つめ。犯人を決めるのは感覚ではなく、1つずつ戻して比べる手順です。盲検にすると答えが変わる、という実例がすでにあります。
参考文献・参考資料
- 日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)」食事指導・食事療法の項 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/IBSGL2020_.pdf
本記事は診療ガイドラインの記載の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。引用した研究の対象は過敏性腸症候群と診断された患者です。特定の食品・食事法の効果を示すものでも、実施を勧めるものでもありません。食事制限は栄養素の不足を招く可能性があります。治療中の方、食事制限を受けている方、お子さま、妊娠中・授乳中の方は、個別の指示が優先されます。
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