たんぱく質を、どこまで増やす意味があるか
たんぱく質に、耐容上限量は設定されていません。健康な人で腎機能を悪くすると言える報告が足りない、というのがその理由です。
同じ報告書が、逆のことも書いています。1.6 g/kg体重/日を超えて摂っても、除脂肪量はそれ以上増えない可能性が高い。
「飲みすぎると腎臓に悪い」も「多いほどいい」も、日本の公的な基準のなかでは根拠が乏しいとされていました。
必要量には、具体的な数字がある
『日本人の食事摂取基準(2025年版)』は、たんぱく質の推奨量を年齢と性別ごとに示しています1。
| 年齢 | 推奨量 男性 | 推奨量 女性 | 目標量(男女共通) |
|---|---|---|---|
| 18〜49歳 | 65g | 50g | 13〜20%エネルギー |
| 50〜64歳 | 65g | 50g | 14〜20%エネルギー |
| 65歳以上 | 60g | 50g | 15〜20%エネルギー |
この数字の出どころは、たんぱく質維持必要量 0.66 g/kg体重/日です。15〜84歳を対象にした28研究・計348人のメタ・アナリシスで得られた値で、95%信頼区間は0.64〜0.68。性差も、若年・中年と高齢者の差も認められませんでした1。
推奨量は、ここに参照体重と個人差の係数を掛けて出しています。
日本人の平均は、すでに推奨量を上回っている
では、実際にどれくらい食べているのか。令和5年(2023年)の国民健康・栄養調査では、20歳以上の1日あたり平均摂取量は男性77.7g、女性65.7gでした2。

もちろんこれは平均です。平均に一致する人がどれだけいるかは別の話で、少ない人はいます。ただ、「日本人全体としてたんぱく質が不足している」と言える状況ではありません。
上限が設定されていない理由
ここが、この記事でいちばん重要な部分です。
食事摂取基準は、栄養素ごとに「これ以上は健康被害のリスクが上がる」という耐容上限量を定めます。たんぱく質には、どの年齢区分にも設定されていません1。
報告書は、その検討過程をそのまま書いています。もっとも関連が深いと考えられたのは腎機能への影響でした。そこで調べた結果が、次の3つです1。
| 研究 | 結果 |
|---|---|
| 健康な人で摂取量を変えて腎機能を検討した試験のシステマティック・レビュー | 35%エネルギー未満であれば腎機能を低下させることはないだろうと結論 |
| 20%エネルギー以上(1.5 g/kg体重/日以上または100 g/日以上)の高たんぱく質摂取が糸球体濾過率に与える影響のメタ・アナリシス | 通常または低たんぱく質摂取と比べて有意な違いは観察されなかった |
| たんぱく質摂取量と腎疾患リスクをまとめた2023年のアンブレラレビュー | 観察期間が短いなどの課題は残るが、発症リスクを高めるという結論には至らなかった |
これらを踏まえて、報告書はこう書いています。「現時点でたんぱく質の耐容上限量を設定し得る十分かつ明確な根拠となる報告はない」1。
読み違えやすいところなので分けておきます。上限が設定されていないことは、「いくらでも大丈夫」という意味ではありません。調べた範囲では健康な人の腎機能を悪くすると言える結果が出ていない、というところまでです。
そして、これは健康な人の話です。慢性腎臓病(CKD)では、腎臓の保護を目的にたんぱく質摂取量の制限が食事療法の主眼に置かれています1。すでに腎機能を指摘されている人は、この記事の範囲の外にいます。
ただし、「多いほどいい」の根拠もない
同じ報告書が、逆の方向についても書いています。
レジスタンストレーニング期にある成人を対象に、たんぱく質の除脂肪量への効果を検証した研究のメタ・アナリシス。そこでは、1.6 g/kg体重/日以上摂取しても、除脂肪量の増大への効果は得られない可能性が高いと報告されています1。

さらに、推奨量以上の摂取によって他の健康指標に有益な影響が得られるという根拠も乏しいとされています。報告書は、「上限のないたんぱく質の摂取が健康増進に有益な効果をもたらすわけではない点には注意が必要である」と明記しました1。
血圧との関連も、骨密度との関連も、レビューの結果は一貫しておらず十分な結論は出ていません1。
例外は、65歳以上
年齢によって、話の向きが変わります。
2025年版では、65歳以上の目標量の下限が15%エネルギーに引き上げられています(1〜49歳は13%、50〜64歳は14%)。理由は、フレイルとサルコペニアの発症予防です1。
報告書は、高齢者については推奨量の値よりも多め(1.2 g/kg体重/日以上)に摂取するほうが、フレイル及びサルコペニア発症を予防できる可能性があると書いています1。
根拠のひとつが、70歳以上の高齢男性を対象にした10週間の無作為化比較試験です。0.8 g/kg体重/日を摂る群では四肢の筋量が減少し、その2倍の1.6 g/kg体重/日を摂る群では維持されました1。
若年成人でも、エネルギー摂取量を増やしたうえで比べた試験で、0.68 g/kg体重/日の群は除脂肪量が減り、1.8 g/kg体重/日の群は増えたと報告されています1。
つまり、「生きるのに足りる量」と「筋量を保つ量」は別の数字だということです。推奨量は前者を満たすための値でした。
目標量の上限、20%エネルギーの意味
耐容上限量はありませんが、目標量には上限があります。1歳以上の全年齢区分で20%エネルギーです1。
報告書は、この線を引いた理由も書いています。20〜23%エネルギー前後の摂取について、成人では各種の代謝変化への影響が、高齢者では腎機能に好ましくない影響が、検証すべき課題として残されているとシステマティック・レビューが結論づけているためです。そのうえで「十分な科学的根拠はまだ得られていないものの」と添えられています1。
目標量のエビデンスレベルはD2とされています1。根拠の強さを示す記号で、基準の中でも確実性が高いほうではありません。
参考までに、日本人20歳以上の実際のたんぱく質エネルギー比率は、調査の脂質・炭水化物の比率から逆算すると約15%になります2。目標量の範囲のなかにあります。
自分がどこにいるか
整理すると、数字はこう並びます。
足りているかどうか。日本人の平均は推奨量を超えています。まず、自分が平均から大きく外れていないかを見ます。栄養素には血液で確かめられるものと、食べている量から見るものがあり、たんぱく質は後者です。
増やす理由があるかどうか。筋量を保ちたい、あるいは65歳以上である。この場合は、推奨量より多い側に理由があります。
どこで止まるか。筋量については1.6 g/kg体重/日。それ以上の効果は確かめられていません。
もう1つ、筋肉とは別の使い道があります。体が異物を処理して外へ出すとき、第II相でくっつける材料はアミノ酸から作られます。グリシン、タウリン、グルタミン酸、そして硫酸は含硫アミノ酸から。解毒の材料は、特別な物質ではなくアミノ酸と糖です。
ただし、ここから「たんぱく質を増やせば処理が速くなる」とは言えません。足りていない状態から足したときと、足りている状態から足したときでは、起きることが違います。そして日本人の平均は、すでに推奨量を超えています。
「たんぱく質は多いほどいい」も「たんぱく質は腎臓に悪い」も、同じ報告書のなかで根拠が乏しいとされていました。足すかどうかは、その前に自分の目的を決めてからになります。
参考文献・参考資料
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 エネルギー・たんぱく質 1-2 たんぱく質 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316462.pdf(維持必要量 p.87、耐容上限量 p.93、推奨量以上の摂取 p.94、高齢者とフレイル pp.94-95、目標量 pp.95-96、CKD p.96、概要 p.97、基準表 p.103)
- 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」栄養素等摂取量(表3・表4) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf
本記事は公的な基準と統計の整理であり、個別の診断・治療・栄養指導に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・製品の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。必要量には個人差があり、記載の数値がそのまま当てはまるとは限りません。
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