PFASを、いまどこまで気にすればいいか
食品安全委員会は2024年6月25日、PFOSとPFOAの耐容一日摂取量を20 ng/kg体重/日と定めました1。日本で初めて、PFASに数字が引かれたことになります。
ただし同じ評価書に、こう書かれています。海外評価機関が採用しているエンドポイント(どの健康影響を基準に置くか)及び指標値は大きく異なり、PFOSで約600倍、PFOAで約5,300倍。現時点では、国際的に整合性の取れた健康影響評価が確立されている状況ではない1。
線は引かれました。ただし、その線がどこにあるかについて、世界の合意はありません。
どうやって20という数字が出たのか
耐容一日摂取量(TDI)は、毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される、一日当たりの摂取量です1。
出し方は、食品添加物の一日摂取許容量と同じ考え方です。動物試験で影響が出なかった量を出発点にして、種の差と個人の差を見込んだ係数で割ります。
| PFOS | PFOA | |
|---|---|---|
| 出発点 | ラット2世代試験の児動物の体重増加抑制 | マウス試験の胎児の骨化部位数の減少など |
| ヒト等価用量 | 500〜600 ng/kg体重/日 | 5,300 ng/kg体重/日 |
| 不確実係数 | 30(種間3×種内10) | 300(種間3×種内10×LOAEL使用10) |
| TDI | 20 ng/kg体重/日 | 20 ng/kg体重/日 |
出発点の値は10倍近く違うのに、TDIは同じ20に落ち着いています。不確実係数が30と300で違うためです。数字が同じでも、その後ろにある確からしさは同じではありません。
600倍と5,300倍という開き
ここが、この評価書でいちばん正直な部分です。

同じ物質について、機関ごとに採用する試験も指標値も違い、その幅がPFOAでは5,300倍に達しています。「エビデンスがある」と言うとき、何を指しているのかという問題が、そのまま出ている状態です。
そして評価書は、将来的に科学的知見が集積してくればTDIを見直す根拠となる可能性はあると書いています1。いまの20という数字も、確定したものではありません。
評価できなかったものがある
PFASは総称で、多くの種類があります。今回、指標値が出たのはPFOSとPFOAの2つです。
PFHxSについては、「評価を行う十分な知見は得られていない」として、指標値の算出は困難と判断されました1。
また、EFSAは2020年にPFOS・PFOA・PFHxS・PFNAの合計値で指標を設定していますが、食品安全委員会は複数のPFAS分子種による複合ばく露について、動物試験でも疫学調査でも知見がほとんどないとして、合算での設定を採っていません1。
自分がどこにいるかは、まだ分からない
線が引かれても、自分がその線のどちら側にいるかは別の問題です。
評価書は、今後必要なこととしてこう挙げています。摂取量・ばく露量の分布、高ばく露の個人や集団の把握、摂取・ばく露経路の推定についての情報。そして、飲料水や食品におけるPFAS濃度の分布に関するデータ収集を早急に進めることが必要である1。
つまり日本人が実際にどれだけ摂っているかの全体像は、これから集める段階にあります。
これはマイクロプラスチックと同じ構造です。線が引かれたかどうかの違いはありますが、「自分がいまどれだけ入れているか」を確かめる手段が手元にないという点は共通しています。
入る量が分からないとき、何が残るか
入口の側について、分かっていることがあります。PFASは撥水・撥油加工に使われてきたため、フライパンのコーティング、撥水加工の衣類、包装紙が経路として挙げられます。
ここは金属の入口の一覧と並べると位置がはっきりします。金属には、魚種ごとの摂食目安も、水質基準も、耐容週間摂取量もあります。PFASには、日本のTDIという数字が1つあるだけで、自分の摂取量を知る手段がありません。
そして、入口を完全には閉じられません。この点はマイクロプラスチックと同じ構造です。
PFASは、分解されにくいことから対策が議論されている物質群です。入口を特定して減らす取り組みは、使用規制や排出源対策として国の側で進みます。
個人の側で残るのは、入った分をどれだけ処理して外へ出せているかのほうです。
体の出口は尿と便の2つあります。水に溶ける形になったものは腎臓から尿へ、尿から出せないものは肝臓が胆汁に乗せて便へ送ります。入る量を自分で測れないときほど、この差が効いてきます。
そして胆汁を介した経路の終点は便です。その通過に関わる食物繊維は、日本人がすでに目標量に届いていない項目でした。
参考文献・参考資料
- 内閣府食品安全委員会「有機フッ素化合物(PFAS)の食品健康影響評価について」2024年6月25日 https://www.fsc.go.jp/osirase/pfas_health_assessment.data/pfas_hyoukagaiyou.pdf 評価に関する情報ページ
本記事は公的機関の評価書の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・検査・浄水器などの効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。PFASの健康影響評価は国際的に確立しておらず、記載の指標値は今後見直される可能性があります。居住地域の水道水質については、各自治体の公表資料をご確認ください。
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