「代謝が落ちた」と感じたとき、何を確かめるか
二重標識水法で実際に測ったデータでは、20歳から60歳のあいだ、代謝は落ちていませんでした。体組成で調整した総エネルギー消費量は、この40年間ほぼ一定です。
下がり始めるのは60歳以降でした。「30代から代謝が落ちる」という説明とは、正面からぶつかります。
では、体重が増えたことや、疲れやすくなったことは何だったのか。「落ちた」と感じるものの正体と、代わりに何を確かめられるのかを順にたどります。
年齢で一直線に落ちる、とは言えない
代謝は年齢とともに下がり続ける。長くそう考えられてきました。
2021年、生後8日から95歳までのデータを集めた解析が報告されました。結果は、その形をしていませんでした2。

成人期のあいだ、下がっていませんでした。下がり始めるのは60歳を過ぎてからです。
日本の『食事摂取基準(2025年版)』にも、近い数字が載っています。同じ測定法を使った世界139の研究では、20〜70歳の範囲は、ほぼ全てが体重1kgあたり30〜40 kcal/日に収まっていました1。年齢が上がるほど下がる、という並びにはなっていません。
では、なぜ「落ちた」と感じるのか
感覚は外れていません。体重あたりで見ると、実際に少しずつ下がります。
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 18〜29歳 | 23.7 | 22.1 |
| 30〜49歳 | 22.5 | 21.9 |
| 50〜64歳 | 21.8 | 20.7 |
| 65〜74歳 | 21.6 | 20.7 |
| 75歳以上 | 21.5 | 20.7 |
ただし、18〜29歳と50〜64歳の差は男性で約8%です。体重60kgなら、1日あたり110kcalほど。おにぎり半分くらいの差で、体型が大きく変わることの説明にはなりません。
そして、この8%の原因も年齢ではありません。この表は体重あたりの数字で、さきほどの解析は脂肪を除いた体重あたりでした。同じ体重でも脂肪の割合が増えれば、体重あたりの数字は下がります。
つまり、下がって見える分のかなりは、体の組成が変わったことで説明されます。年齢は変えられませんが、こちらは変えられます。
体組成計の「基礎代謝」は、測った値ではありません
体組成計や健康アプリが基礎代謝量を表示します。あれは実測値ではなく、身長・体重・年齢・性別などから計算した推定値です。
しかも計算式は一つではありません。食事摂取基準は主なものとして4つの式を挙げています1。式が違えば、同じ人でも出てくる値が変わります。
去年より数字が下がっていても、体重や体脂肪率の入力が変わっただけのことがあります。1回の値ではなく、動き方で見るという考え方は、ここでも同じです。
「食べていないのに太る」と感じるとき
代謝の話とセットで出てくるのが、この訴えです。ここには、繰り返し確かめられた答えがあります。
食事の記録は、実際より少なく出ます。食事調査で得られた摂取量と、実測した消費量を突き合わせた100の研究では、ほとんどで申告のほうが下回っていました。そしてBMIが大きいほど、その差が大きくなる傾向がありました1。
嘘の申告ではありません。記録が難しいだけです。

報告書は、摂取量と消費量は測り方がまったく違うため両者を比較する意味は乏しいとも書いています1。アプリの摂取カロリーから時計の消費カロリーを引いても、そこから分かることは限られます。
かわりに挙げられているのが、体重とBMIの変化を見ることです1。摂取と消費の差は、最後にそこへ現れます。記録の誤差を積み上げるより、結果の側を測るほうが確かだ、という整理です。記録から自分について何がどこまで分かるのかは、別の記事で整理しました。
医療で確かめられるのは、甲状腺
「代謝」という総合点を測る検査はありません。ただし、甲状腺の働きは血液検査で確かめられます。
甲状腺ホルモンの分泌が低下する病態を、甲状腺機能低下症といいます。日本甲状腺学会の診断ガイドラインは、その臨床所見として無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声を挙げています。検査所見は遊離T4(FT4)が低値で、TSHが高値であることです3。
症状のどれかが続いていて心当たりがあるなら、確かめる価値があります。
ただし、この一覧を読んで「当てはまる」と感じただけでは、判断できません。こうした症状は、そもそも多くの人に当てはまります。決めるのは症状ではなく、検査の値のほうです。
自分で確認できること
先に1つ。「代謝の低下による体重増加」という一文は、いろいろな説明に登場します。検査結果の症状一覧にも、広告にも入っています。
ただ、この記事の冒頭で見たとおり、二重標識水法で実測すると、20歳から60歳のあいだ代謝は落ちていませんでした。実測データと正面からぶつかる説明です。
そして「代謝」という言葉自体が、エネルギー消費と、物質の作り変えという別の2つを指しています。肝臓が異物を処理して外へ出す反応も「代謝」と呼ばれますが、そちらは体重とは別の話です。同じ言葉で呼ばれているだけで、測っているものが違います。
| 状況 | |
|---|---|
| 年齢 | 脂肪を除いた体重あたりで見ると、20〜60歳は安定していた |
| 体の組成(筋肉など) | 体重あたりの数字が下がる主な理由。食事と運動で動く |
| 活動量 | 消費量のうち、日ごとに最も変わる部分 |
| 食事 | 記録は実際より少なく出る。体重の変化のほうが確か |
| 甲状腺 | TSH・FT4 で確かめられる |
| 体組成計の「基礎代謝」 | 推定値。式によって変わる |
年齢は変えられませんが、上の4つは記録できます。そして「代謝を上げる」という言い方で語られるものには、「免疫力を上げる」と同じ問題があります。上がったかどうかを何で判定するのかが決まっていないため、効くとも効かないとも言えません。
体重が意図せず減っている、または短期間に大きく増えた。強い倦怠感が続いている。極端に寒がりになった、または暑がりになった。脈が速い、または遅い。これらは生活の工夫で動く範囲にありません。そして、上に書いたTSHとFT4で確かめられる側でもあります。
年齢のせいにする前に
「代謝が落ちたから」は、便利な説明です。原因がはっきりして、しかも自分では変えられないことになるので、そこで話が終わります。
ただ、測られた結果はそこまで単純ではありませんでした。20歳から60歳まで、脂肪を除いた体重あたりで見た消費量は安定していた。変わったのは、体の組成と、活動量と、食事のほうです。
40代・50代であれば、更年期のほうも同じ症状で重なります。どちらも、確かめる順番は決まっています。そして甲状腺は、血液検査で実際に確かめられます。検査が答えている問いはいつも狭いとしても、答えられる問いには答えが出ます。
参考文献・参考資料
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 各論 エネルギー(pp.53、63-66) https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316461.pdf
- Pontzer H, Yamada Y, Sagayama H, et al. Daily energy expenditure through the human life course. Science. 2021;373(6556):808-812. doi:10.1126/science.abe5017 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34385400/
- 日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン2024」甲状腺機能低下症の診断ガイドライン(2024年11月21日改定) https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html
本記事は公的な基準と研究状況の整理であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。特定の食品・サプリメント・機器の効果を示すものでも、使用を勧めるものでもありません。甲状腺疾患の診断と治療は医師の判断によります。
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